元書店員の私が本屋の仕事で痛感した「幸せな瞬間」5選

わたしは大学卒業後、いろいろな仕事をしてきました。
そのうち、書店員として本屋で働いた時間は本当に充実していて楽しかったです。

もう一度なんらかのかたちで書店員として働きたいという野望を持っていますが、いまは潜伏期間。

書店員の仕事の楽しさを忘れずにいたいので、いまここに「本屋で感じた幸せな瞬間」を書き記しておきたいと思います。




1.思い切って面陳・平積みした本がよく売れた

お客さんが求めている本をルール通り並べるのは簡単です。
なぜならベストセラー、季節モノ、定番本など並べれば一定数は確実に売れる本という予測が立てやすいからです。

書店員として本当に楽しいと思えるのは「お客さんの潜在ニーズを喚起できた瞬間」です。

わかりやすくいえば、今まで売れてこなかった、あるいは眠っていた既刊本を自分の目で掘り起こして売ることです。

そのためには立地や客層はもちろんのこと、世の中の関心事をしっかりと捉えて「もしかしたら、この本売れるかも?」と好奇心を持って常に考える必要があります。

また、当然ながら書店員として本をたくさん知っていることも求められます。
ふだんから本を読み、研究をし、類書との比較をしながら戦略的に本を仕入れる必要があるからです。

こうした努力や経験によって自分が選んだ本がよく売れたとき、「書店員ってなんて楽しいんだろう」と心から思います。

もちろん、すべての”仕掛け本”が売れるわけではありません。私自身、これまで何度もハズしたことがあります。

でもそこからフィードバックを得て、「次はこの本を仕掛ければ売れるんじゃないか?」と考えるのも仕事の楽しさです。

2. お客さんに聞かれた問い合わせに、的確に対応できたとき

書店員にとって、お客さんからの問い合わせに対応するのは非常に大切な仕事です。
もちろんすべての仕事に言えることではありますが、本屋に来るお客さんの問い合わせの”質”は他の小売業とくらべて異質なところがあります。

問い合わせの典型とも言えるのが「この本、どこにありますか?」というもの。
特に大型書店でこの質問をされるとき、書店員としての経験と方向感覚が非常に強く求められます。

棚の場所、エリアなどを答えるのは当然ですが、経験値の高い書店員は「1冊差し」の本まで見つけ出すことができます。

日頃から棚にふれて、どの本がどこにあるかまで明確に記憶している書店員は棚の「1冊差し」をスグに見つけ出すことが可能です。

これは書店員自身の満足感(言いかえればドヤ感)を満たすのにも一役買いますが、それ以上にお客さんにとって非常に助かることでもあります。

問い合わせを受けてモタモタしていると、「自分で探したほうが早かった」とお客さんに思われてしまいます。

3. 「類書のちがい」をお客さんに説明できたとき

これは2つめの「お客さんに聞かれた問い合わせに、的確に対応できたとき」にもつながるところですが、熱心なお客さんほど本選びには慎重になります。

たとえば、その慎重さは「この本とあの本、どっちが良いですか?」という質問として姿を表します。
つまり、同じような内容の本が何冊かあるときに、どちらを買うべきか慎重に吟味をするわけです。

わたしは以前、大型書店のコンピュータ書を担当していたのですが、お客さんからはよく類書についての質問を受けました。

書店員をしながら、ヒマな時間を見つけてはお店に並んでいる本をパラパラ読んで勉強していたので、なかなかの高打率で返答ができたことは自信につながりました。

「この本はRuby on rails(注:プログラミング言語の1つ)の環境構築について書かれていないので、初心者の人には不向きかもしれません」

こんな受け答えができた日にゃ、そりゃもう美味しいお酒を浴びるように飲むわけです。

4.書店員仲間と共通の本の話ができて、さらに一緒に飲みに行くとき

どんなに仕事内容が良くても、やはり職場環境が良くないと充実感は得られません。
特に、一緒に働く同僚や上司によって仕事の良し悪しはかなり左右されると思います。

幸いなことにわたしは書店員仲間に恵まれ、それはそれは楽しい本屋ライフを送らせていただきました。

趣味の話、仕事の話でもいいのですが、やはり本という共通の話題で盛り上がられるのは何とも幸せなひとときです。

好きなモノの話、つまり本の話が自然と仕事の話にもつながるので、「趣味の延長線上に仕事がある」と感じられるのは書店員として幸福です。

本屋ではたらく人は程度の差はあれど、たいていは本が好きで働いています。
だから十中八九、本の話題で盛り上がれる。本当に良い仕事だと思います。

仕事終わりに書店員仲間と安い居酒屋で飲むビールは、いまでも鮮明な記憶として蘇ります。

5. 出版社の営業の人と仲良くなれたこと

書店員はどちらかと言うと閉鎖的な環境で仕事をしています。
わかりやすくいえば、なかなか本の売れ行きに関する情報が入ってこないのです。

そんな書店員の頼りになるのが、出版社の営業です。
出版業界外の人にはあまり知られていませんが、出版社は本屋を回って「ウチの本を仕入れてくれませんか?」と現場の書店員に営業をします。

出版社の営業担当の人はいろんな本屋を回っていますから、いまどんな本が売れているのか?をよく知っているわけです。
特に助かるのは、そのエリアで売れている本の情報を教えてもらえること。

出版社の営業は自分の担当エリアを持っていますから、当然同じエリアに出店しているライバル書店にも行っています。
ですから「◯◯書店ではこの本がよく売れています。ですからこちらのお店でも売れると思いますよ」なんていうアドバイスがもらえるわけです。

ここで重要なのは「自社の本とは関係のない情報をくれること」。
雑談をしながら、他社の売れ筋本の話をしてくれる営業は信頼できますよね。

もちろん自社の本ばかりゴリ押しする営業もいますし、本の陳列を勝手に変えるバカ営業も少なからずいます。

あと、出版営業を徹底的に嫌う書店員も少なくないですから、こればかりは相性や本人の好き嫌いも関係してくるかもしれません。

でも、わたしは情報をくれる出版営業の人は好きでしたし、懇意にしてました。

ご飯もおごってもらうこともしばしばあったので、普段は高くて頼めない料理をここぞとばかりに注文する精神力も養えました。

【おまけ】突然、お客さんに後ろから…

本屋は接客業ですから、お客さんと仲良くできるのも仕事の楽しみの1つです。

今でも強烈に覚えているのは、店内で急にお客さんから声を掛けられたときです。

わたしは店頭で棚のメンテナンスをしながら、売れた本の補充や、POPのお手入れをして黙々と仕事をしていました。

その時です。突然、何者かが後ろから声を掛けてきたのです。

「その靴、わたしと同じですね」

突然のことだったので、何のことかわかりませんでした。そして声を掛けられたとき、正直なところ「(なんだこいつ…)」と思いました。

ただの靴であればただカブっていて恥ずかしいだけかもしれません。場合によっては「ハハハー」と愛想笑いで終始していたかもしれません。

冷静になって、よくよくお客さんの足元を見てみると、なんと私と同じ靴を履いていたのです。
それも、その同じ靴というのがビルケンシュトックの「モンタナ」という靴でした。

自分で言うのもアレなんですが、ビルケンシュトックの靴を履いている人は多少こだわりのある人だと思っています。もっと言えば「違いのわかる男」だと思っています(調子に乗らせてください)。

値段もそれなりにするので、ちょっと軽い気持ちで履くような靴ではないからです。

同じモンタナの靴を履いているお客さんから声を掛けられてからというもの、相手への親近感&好感度は一気にMAXへ。

そこからはお客さんと店員という間柄を忘れて、しばらくビルケンシュトックの話題で盛り上がったのでした。

またいつか書店員として至福の時を味わうため、いまは雌伏の時だと思っています(靴だけに韻を踏んでみました)。

そのうちまた本屋で働くことを夢見ながら、今日も仕事を頑張ってます。

ちょっとコアなところまで話が飛躍していまいましたが、こうして振り返ってみても書店員は本当に楽しく幸せな仕事でした。