なぜアノ本は売れたのか?ベストセラーを生み出す本の販売戦略

今は本が売れない時代と言われていますが、それでも売れている本はたくさんあります。

一体どのような工夫をしたら本は売れるのでしょうか。

今回は書店側、出版社側の成功した取り組みについてそれぞれ紹介したいと思います。




”表紙を隠す”という発想で話題噴出!「文庫X」

文庫X_1

「文庫X」は読者へのメッセージがびっしりと書かれたカバーで覆われています。

もともとは、2016年7月に盛岡のさわや書店フェザン店で始められた取り組みです。

販売当初はタイトルの印字もなく、カバーだけでなくビニールにも覆われ、中身どころかタイトルまで知ることができない状態でした。

わかるのは値段、ページ数、小説ではない、ということのみ。

カバーには”この本を読んで心が動かされない人はいない、と固く信じています。”という一文があり、この言葉が多くのお客さんの心に刺さりました。

「文庫X」として販売してからわずか2週間で200冊が売れるという異例の数字。さらに、テレビなどのメディアで紹介されたこともあり、その後も爆発的に売れ続けました。

そして、11月下旬には全国600店以上の書店で販売が始まり、「文庫X」は日本全国に広まることとなります。 

ネット社会のいま、「中身が何の本かをバラす人がいるのでは?」とも思われましたが、実際はバラす人はほとんどいなかったとのこと。

その後、「文庫X開き」が公式に行われ、清水潔さんの『殺人犯はそこにいる』(新潮文庫)ということが公表されました。

現在は袋を外した状態で販売されており、本のタイトルはわかるようになったものの基本的にはメッセージの書かれたカバーはかぶせた状態で売られています。

ノンフィクション作品はあまりヒットしないと言われますが、本書の発行部数は昨年末時点で18万部にまで達しています。

「表紙を隠して本に興味を持ってもらう」という取り組みは他の書店でも行われていましたが、それがきっかけで爆発的に本が売れたという事例は過去にありませんでした。

面白いアイデアと、さわや書店の自由な社風、書店員の熱い気持ちなど、多くの条件が揃ったからこそ成功した企画と言えるでしょう。

「文庫X」の考案者であるさわや書店フェザン店の長江貴士さんは7月に『書店員X』を上梓。販売戦略の裏話などが書かれており、読み応え十分です。

発売前に全文公開!1カ月半で4万部売れた

ある日突然、「≪担当編集者からお願い≫「すごい小説」刊行します。キャッチコピーを代わりに書いてください!」というお願いが新潮社のホームページで公表されました。

それは、2017年7月14日~7月27日までの2週間限定で修正途中の原稿を公開し、それを読んだ読者がキャッチコピーを考えて応募するというもの。優秀作品に選ばれた読者には賞品が贈られるという珍しいキャンペーンでした。

宿野かほるという無名の作家が書いた『ルビンの壺が割れた』は、発売前にWEB上で全文公開・キャッチコピーの募集が行われたとても珍しい本です。

ここに公開するのは、ある日突然送られてきた、まったく名前の知られていない著者による、刊行前の小説です。
ものすごく面白く、そして、ものすごく奇怪な小説でした。
あまりにすごいので、私はいまだ、この作品にふさわしいコピーを書けずにいます。
よろしければ、この小説をお読みいただき、すごいコピーを書いていただけませんか。
(ただし結末は絶対に明かさないでください)
新潮社より)

キャッチコピーの募集も兼ねたこの広告戦略は、結果的に6015件のキャッチコピーを集めて大きな反響を見せました。

その後、本の帯全体がキャッチコピーで覆われた状態で陳列され、書店では大々的に販売されました。

巧みな広告・販売戦略によって、本書の発行部数は8月の刊行から1カ月半で4万部に到達。まったく無名な作家の著書としては異例のヒットといえるでしょう。

新潮社のTwitterアカウントでは、『ルビンの壺が割れた』の口コミをリツイートをすることで、現在も積極的に宣伝を行っています。

読者を巻き込んだ広告戦略の、1つの成功事例といえるでしょう。

常識にとらわれない取り組みが、次のヒット作を生む

今回紹介した2例はとても特殊なケースで、同じような取り組みをしたからといって本が売れるとは限りません。

ただ、確実に言えるのは常識にとらわれない取り組みに挑戦することが、本の売り上げにつながるということです。

そして、単に話題になるだけではなく、当然ながら”面白い本である”ということも必須条件です。

面白い本を見つけること・つくることは大切ですが、書店員や出版社に求められるのは「いかに読者の心に刺さる見せ方ができるか」ということでしょう。