本屋を独立開業したい人のための生存戦略 〜あたらしい本屋の条件とは?〜

書店員のみならず、本好き人が一度は憧れるのが「独立系の本屋」を開業すること。
つまり、自分のお店を持つことです。

誰にも邪魔されることなく、自分が好きな本だけをセレクトできるのは至上の幸福。

ただそれだけでも十分幸せなのに、「他の誰かが自分の選書に共感してくれる」という喜びも+αで味わうことができます。

とはいえ、自分の本屋を開業するのは困難な時代であることも事実。
街の本屋が潰れまくっているわけですから、大きなリスクと戦わないといけません。

何らかの決定的な戦略がない限り、ハッキリ言って生き残るのがむずかしい状況です。

まずはこれからの本屋に必要な生き残る条件をしっかりと理解することが先決といえます。
潰れない本屋を開業するには、どんなアイデアが必要なのでしょうか?




1.流行のスタイルは「ブックカフェ」

本屋をオープンするにあたって、真っ先に思い浮かぶのが「売り上げの問題」です。

どんなお店にも言えることではありますが、売り上げが立たないとビジネスとして存続できません。

本は、ご存知のとおり売り上げが低迷している代表的な商品です。
ですから、本だけを売るのでは本屋としての売り上げが非常に懸念されます。

そこで思いつくのは「本屋+α」という業態。
もっともわかりやすいのが「ブックカフェ」です。

ドリンクは原価率が非常に低く、売れば売るほど利益がどんどん積み上がるので本が売れなくても売り上げをカバーできます。

くわえて、「本とコーヒー」という字面を見るだけで相性の良さが窺い知れる組み合わせは無敵と言えるでしょう。

私自身はブックカフェという業態に懐疑的なのですが(【本屋の話】新宿にある残念なブックカフェ)、売り上げを考えるうえでは非常に有益なやり方です。

個人で本屋を開くときはもちろん検討すべきですが、最近では大手の本屋チェーンも続々と「ブックカフェ」の新業態をオープンさせています。

そのあたりが、ブックカフェの有益性と本が売れない業界を物語っていると言えるでしょう。

ただのカフェに本棚を設置して、あたかも「ウチ、本屋なんですよ〜知的でしょ?」っていう顔をして営業をしているお店も少なくありません。

そういうお店にだけはならないようにしたいですが「とにかく自分の本屋をオープンさせたい!」という人にとって、ブックカフェは現実的な選択肢です。

2.イベントで収益を確保する本屋

さきほども説明したとおり、本の売り上げだけでビジネスを成立させるのはむずかしい時代になっています。
つまり「本+α」がないと、現実的には生き残れないのが本屋業界なのです。

その+αとして、最近増えつつある業態が「本屋+イベント」という収益スタイルです。

もっと厳密にいえば「ブックカフェ+イベント」です。
ここでは本屋とイベントを上手く融合させた成功事例を2つご紹介します。

下北沢「B&B」

街の本屋を語るとき、もっとも多くの人の口の端に上るのはブックコーディネーターである内沼晋太郎氏ではないでしょうか。

「本屋+イベント」の代表例1つ目は、彼が下北沢にオープンさせた本屋「B&B」です。
B&Bは「ブック&ビア(ビール)」の略。つまり、本を読みながらビールが飲める本屋さんです。
このあたりは、もはや説明不要かもしれませんね。

「ブック&ビア(ビール)」。これだけでは最初に紹介したブックカフェの考え方と変わりませんよね。

では、なにが他の本屋とちがうのか?じつはB&Bはイベントに力を入れています。
いや、もはや「イベント>本屋」といっても過言ではないかもしれません。
なぜなら、B&Bでは毎日イベントを開催しているからです。

B&Bのウェブサイトを見ればわかりますが、約1ヶ月先までイベントがビッシリ。圧巻のイベント量です。

これだけ多くのイベントを企画・実行するのはとてつもないことです。
企画力はもちろんのこと、業界を超えた人脈がないと成立しないからです。

B&Bは「ふつうの新刊書店」を標榜しながら、ふつうの新刊書店では絶対にできないことを日々やっています。

池袋「天狼院書店」

2013年9月、池袋にオープンした天狼院(てんろういん)書店。

この本屋は「READING LIFEー本を通した体験ー」をコンセプトに掲げています。
つまり、本を売るだけでなく体験することを主眼に置いた本屋ということ。

その具体例としてわかりやすいのが天狼院書店の「部活」です。
部活とは、学生時代に打ち込んだあの部活動のこと。
それを天狼院書店では体験することができます。

  • ・フォト部
  • ・雑誌編集部
  • ・英語部
  • ・落語部
  • ・デザイン部
  • ・映画部
  • ・劇団天狼院
  • ・漫画編集部
  • ・旅部
  • ・ピアノ部
  • ・健康部

これらは天狼院書店のウェブサイトに掲載されている一例です。
プロの講師のもとで、自分の興味がある部活を受講することができます。

ほかにも読書会やイベントを開催して、本以外からの収益をきちんと確保しています。
福岡や表参道にもお店をオープンしており、着実に安定して売り上げを立てていると考えられるでしょう。

閉店する本屋が多い中での大躍進ですから、独立開業を目論んでいる人は大いに参考にしたい本屋の1つです。

3.コンセプトが明確になっている本屋

いわゆる街の本屋も素敵です。
しかし、コンセプトがはっきりしていて「わざわざ行きたくなる本屋」というのも戦略の1つとして有効といえます。

コンセプトが明確になるということは、それだけ客層を絞ることになります。
つまり、多少のリスクがある。

それでも何か新しい本屋を開きたいという人にとっては、コンセプトが大きなメッセージとなります。
その最たる例が、2015年に銀座にオープンした「森岡書店」です。

銀座「森岡書店」

”1冊の本だけを販売する”という、なんとも明確なコンセプトを掲げて営業している森岡書店。

店内には期間を設けて、1つの作品だけを並べます。
期間中は、本の中身に合わせて企画展示を行うのが大きな特徴です。

店主の盛岡さんいわく「この店全部が1冊の本で、その世界にお客さんに入ってきてもらうイメージ」だという。

本のなかに絵が収録されていれば絵の展示を行なったりと、1冊の本に付随する世界観を店全体で表現しています。

実現するための収益とコスト計算はもちろんのこと、継続して展示を続けるための営業活動は欠かせないでしょう。

簡単にマネできる本屋ではありませんが、コンセプトづくりの大きな参考になるはずです。

4.店づくりが堅実な本屋

「本屋なんてドコも同じでしょ」

本屋、ひいては本に興味がない人にとって、どの本屋も大差はなく、同じに映るかもしれません。
それが新刊書店を扱う、いわゆる「街の本屋」であればなおさら。
専門に特化しないかぎり、差別化はむずかしいのが現実です。

しかし、一見すると普通の本屋に見えるお店でも、堅実な店づくりをすることが実を結んでいるケースもあります。

代々木上原「幸福書房」

いわゆる「普通の本屋」さんとして、1980年から代々木上原で営業しているのが幸福書房です。

坪数わずか20坪という狭い店内から、一見するとほかの本屋とは大きなちがいは見られません。

しかし、それは棚をよく見ると納得へと変わります。

まず、お店の規模に対して文芸書や人文書などの割合が多い。
そして、そのとき話題になった本でしっかりとフェアを組んでいる。

細かいところではありますが、ほかの本屋では得られない体験を幸福書房では提供しています。

堅実な棚作りは、決して派手さはありません。
多くの本屋がイベントやカフェなど目に見えてわかりやすい方向に走りがちですが、棚作りはやはり本屋の基本。

お客さん目線で選書をし、棚を作れているか。
これが本屋として生き残るための最低条件と行っても過言ではありません。

神楽坂「かもめブックス」

神楽坂駅を降りてスグ、思わず通りすぎてしまいそうな立地にかもめブックスはあります。

この本屋は校正・校閲会社の鷗来堂が運営しています。

入り口を入るとスグにカフェスペースがあるので「なんだ、いわゆるブックカフェか」と落胆するなかれ。
一見すると派手さがあるのですが、棚づくりとフェアの仕掛けには目を見張るものがあります。

店内奥はしっかりとした本屋のスペースになっていて、ブックカフェが陥りがちな「飾りとしての本」は置いてません。
店の分類が非常に秀逸で、狭い店舗ながら思わず滞在時間が長くなります。

いわゆる「文脈棚」と呼ばれる、本の判型やジャンルを横断して棚をつくるスタイルは思わぬ本との出会いを体験できるのが大きな特徴です。

雑誌も多くが面陳で美しくディスプレイされていて、同じ雑誌のはずなのに異彩を放っている印象を受けます。

個人的には、カフェと本屋を融合させたお店としては最高峰に位置するクオリティの本屋だと思います。

ほかの店では目につかない、あるいは置いてない本との出会いと木製の棚の香り。
そしてコーヒーの香り。

この店に来ると、高揚感とともに「やられた…」という嬉しい悔しさに包まれます。

いかに売り上げを立てるかが現実的な課題

「自分の好きな本を並べて、ゆっくりと仕事ができる。本屋ってラクな仕事だなあ」

本屋は「ラクな仕事」というイメージが世間的には広く浸透しています。
もちろん、自分がオススメしたい本を並べて売ることが仕事にできるわけですから、そういう意味ではラクかもしれません。

しかし、本は重いし、何より売れなくなっている。
いまもむかしも、本屋は「ラク」という言葉では決して語ることはできません。

もし今後、会社を辞めるなりして個人で本屋をオープンさせるのであれば、どんな方法であれ「売り上げ」を立てないといけません。

どこかに利益の源泉を確保しておかないと、自分の理想とする選書ができなくなり、結果的に「売れ線」に走らざるを得なくなるからです。

そのためには「他の本屋がやってないこと」を企画することはもちろん大事ですが、堅実に売り上げを立てる現実性も欠かせません。

個人書店が増えることは大歓迎ですが、厳しい現実と向か合う覚悟がないと決して生き残れないでしょう。