内沼晋太郎『本の逆襲』には本の未来が描かれている

「よくこの業界に飛び込んできたね」

これは、わたしが出版社の営業として入社した当日に上司から言われた言葉です。

出版業界はいまや「斜陽産業」の代表格です。とにかく本が売れません。
それでも私が出版業界に飛び込んだのは”本が好き”というシンプルな理由からでした。

この本はそんな出版業界に生きる人にとって、確実にエネルギーになる。
出版業界がいまどんな状況にあって、本はこれからどうなっていくのか。
そのことが基本的なところから分かりやすく書かれています。




本はもはや定義できない

この本の著者である内沼晋太郎さんは「ブックコーディネーター」という肩書で活動をしています。
ブックコーディネーターをひとことで表すと「本と人との出会いをつくる仕事」。
本の可能性を模索しながら、本の活躍できるフィールドを広げる仕事です。

本は拡張をしている」。これは内沼さんが本書で主張している考え方です。

自分にとっての本がどこからどこまでなのかは、人によっても時期によっても変わっていくでしょう。(中略)本を守りたい、なくなってほしくないという使命感を持ちつつも、本の「何を」守りたいのか、「どこが」なくなってほしくないのかについては、自分なりに考えながら、自分の領域にとらわれずに臨機応変にやっていく。それが本の仕事だと考えると、まさにこれから楽しくなるところだという気がしてきませんか。(P45)

出版社がつくったISBNがついていて、スリップが挟まれ、取次によって運ばれて本屋に並ぶのが本である。これが一般的な本の概念です。
でも、この当たり前の本ばかりを扱っていてはこの業界はますます沈んでいくばかりです。

紙の本にお金と時間を使わなくなった理由は何でしょうか?
その最たる例はインターネットでしょう。そしていま模索が続く電子書籍。この2点だと言えます。
このまま紙の本を放っておけば、出版業界は凋落の一途をたどるばかりです。

これからは本のすみ分け・使い分けが進んでいく

いま本を求める購買層は紙の本に愛着があります。だから、どんなに電子書籍が良いと言われても紙の本を選ぶかもしれません。
でも今日生まれた赤ん坊が、これから本に接していくときのことを考えたらどうでしょう。
初めて触れる本が紙ではなく、電子書籍かもしれません。
この「電子書籍ネイティブ」がこれから増えていくとすれば、紙の本の必要性は危ういものになります

だからこそ、紙の本と電子書籍(あるいはWeb上のテキスト)のそれぞれの特性を伸ばしながら、それぞれに合った使い方を提案していく必要があるのです。

紙の本のいいところはなんでしょうか?
ページをめくる感覚、自由に書き込める紙の性質、ハードとソフトを兼ねている、本棚に飾ることができる…
数えればキリがありませんが、こうした紙の本特有の良さをきちんと伝えながら、さらに拡張させていく。
これが本の生き残る道、果たすべき役割なのだと思います。

わかりやすい例で言えば、装丁の美しい本は本棚に飾る。実用的な本は電子書籍で読む。
これからはこうしたすみ分け・使い分けが当たり前になってくるでしょう。

まとめ

紙の本を守る、というより紙の本の可能性をもっと広げていく。
これが本書で語られている「核」の部分です。

出版業界に生きる人にとっては、新しい本の可能性を見出すのにきっと役立つでしょう。
そして、単純に本のことを知りたいという人にとっても新しい発見があるはずです。