これでわかる!ジュンク堂書店の歴史と理念

全国には多くの書店チェーンがあります。
出版業界で働きはじめた頃には「え、ちょ…書店チェーンってこんなにあるの?!」と驚いたものです。

紀伊國屋書店、くまざわ書店、蔦屋書店、丸善…などなど、数えればキリがありません。
今となってはよく聞く宮脇書店、明屋書店、須原屋なども知った当初は耳に新鮮でした。

そんな書店チェーンの中でも今回は『なぜ人はジュンク堂書店に集まるのか』(自由国民社)を題材にして「ジュンク堂書店」にスポットを当て、その歴史と理念を紐解いていきましょう。




何よりも「専門書の充実」を目指して

ジュンク堂は1976年12月24日に兵庫県神戸市の三宮にあるセンター街に出店したのがはじまりです。

当時の三宮は100坪前後の中型店が5店ほどありましたが、専門書をおいている書店は皆無だったといいます。
神戸に住む本好きはやむなく大阪梅田の紀伊國屋書店や旭屋書店まで出かける必要がありました。

専門書が手に入らず困っているという地域の声。
そこに名乗りを上げたのがジュンク堂創業者である工藤社長でした。

専門書を揃えるのは書店の経営的には難しい選択です。
というのも、専門書を揃えるには何よりスペースが必要で、年間に売れる数が少ないので採算も合いません。

しかし、工藤社長自身も学生時代に専門書が神戸で手に入らず困った経験があったので、専門書の充実を目指すのは自然な流れだったといえるでしょう。

1号店である三宮センター街店は社長含め7人のスタッフで準備をスタートさせます。
7人のうち、書店経験があるのは実家の本屋で店番をしていた工藤社長のみで他の6人はまったくの素人でした。

ですからオープンあたって棚の配列や仕入れる本の選定のために、紀伊國屋書店や旭屋書店に何度も足を運んでこっそりと手計測などを準備を進めていきました。

ジュンク堂の理念はこうしてカタチづくられた

無事にオープンを迎えるものの、品揃えや商品知識についてはまだまだ素人同然の状態です。
今すぐ改善できるのは接客だけ。最初はとにかく全力で「いらっしゃいませ!」「ありがとうございました!」と笑顔を心がけました。

そんな1号店の三宮センター街店で産声を上げたジュンク堂書店。
その理念の1つでもある「専門書の充実」は2号店のサンパル店がキッカケになったと言われています。

ジュンク堂サンパル店はJR三宮駅東側の店舗で、「他の書店が三宮に進出するのをあきらめさせる」のが出店の意図でした。
歩いてわずか数分の距離に同じチェーンが店舗を出すのは異例です。至近距離に店舗を出すことに対して同業者や地元からは「無謀」「店を閉めるのも時間の問題」と冷ややかに言われたそうです。

しかし、この出店が今のジュンク堂の在り方を生んだといっても過言ではありません。
ジュンク堂の理念の実現の根源となったであろうエピソードをここで紹介したいと思います。

サンパル店のオープン準備はかなりタイトなスケジュールで行われました。三宮センター街店の従業員を営業時間中に応援部隊として出さなければならないほど。しかし、工藤社長はオープン準備を取り仕切る渡辺さん(本書の著者)にこう言い放ったそうです。「交通整理をするベテラン1名だけいれば充分で、体を動かす応援部隊は経験の浅い人でもいい」「三宮センター街店の棚担当が、そのままサンパル店の棚をつくったら、至近距離に同じような店が並ぶことになってしまうでしょう?」

サンパル店の売り場面積は約300坪。店内は図書館さながら、高い位置にある本はハシゴを使わないと取れないというようなつくりで本好きにはたまらない空間でした。

こうした工藤社長の考え方が2つのお店の差別化につながり、専門書を多く扱うサンパル店で経験を積んだ書店員が「専門書のジュンク堂」を担っていくことになるのです。

ジュンク堂が店内に椅子を設置する理由

専門書は重くて厚い。手に持って立ち読みするのはとても疲れる。
そんなシンプルな理由からジュンク堂は椅子とテーブルを店内に設置しています。

極論を言えば立ち読み客、ましてや座り読み客は書店の敵です。
本は汚れるし、売り場は乱れるし、売り上げが立たない。万引きの可能性だってあります。
ですから、書店の本音としてはサッサと選んでレジでお会計を済ませてほしいはずなのです。

でもジュンク堂は違います。「どうぞ座ってゆっくりご覧になってください」というスタンスです。

海外の書店を研究して、本に親しむ空間を徹底的に演出。
そして備品はなんとすべて特注品。備品にかかる費用は並大抵ではありません。

通称「ジュンク棚」と呼ばれる重厚な棚はナラの木を使って格調高い雰囲気。
これも工藤社長の”専門書のジュンク堂”を印象づけるための演出なのです。

ブックカバーについても工藤社長はこだわりを発揮します。

「本は値引きができないので、せめてカバーはすぐ破れないような、上質のしっかりした用紙をつかって、洗練されたデザインにしよう」との考え方を実行しました。電車の中でジュンク堂のブック・カバーの本を読んでいる人を見て、「あの人、知的ね、ジュンク堂で本を買ってるんだ」と、思われるような、そんなグレードの高い書店にしたい、そんな人たちに来ていただきたい、という思いからです。(P28)

こうした棚揃えや内装、商品の管理からブックカバーまでこだわることで、外側からも内側からもジュンク堂の理念を浸透させていったのです。

「売り場の担当者が仕入れの責任者」仕入部は設けない

ジュンク堂は仕入れ部を設けていません。
一般的に書店には店舗と本部があって、基本的には現場の書店員が本の仕入れを担当しますが、大きく展開するものや話題の本などは書店の仕入部が一括で仕入れることがあります。

本部仕入れは書店の経験の浅い人が仕入れをして、売れない本で棚があふれてしまうことを防ぐことができるので合理的なところもあります。
でも、よく耳にする現場の不満「なんでこんな本を仕入れたんだ。本部の奴らめ」という本部と現場のズレは避けられません。

工藤社長の考えはこうです。

「本は定価販売で値引きやバーゲンもできないから、売ること自体にあまりおもしろみがない。よって社員にやりがいをもって仕事をしてもらうには、仕入れを棚担当者に任せるのが1番いい。また、店頭で毎日お客さまと接し、問い合わせなど生の情報をもっている人間の方が、よりタイムリーで的確な仕入れができるはずだ」(P34)

この理念は簡単そうで、難しいはずです。単に現場に仕入れを任せればいいわけではありません。
しっかりとお客さまとコミュニケーションをし、出版社とも協力をして「売れる本」を目利きする必要があるからです。

これは一朝一夕では実現できません。長年培ったノウハウと、社員のモチベーショんがあるからこそのもの。
現場を大切にし、社員のやりがいを尊重することがジュンク堂の品揃えと棚づくりを生んでいるのです。

「店長の直属の上司は社長」「会議はしない」

組織的にもジュンク堂は注目すべき点があります。
まず社長は問題がない限り、基本的には現場の細かいことに口は出さないということ。
店で何か問題が生じたときに対策をとるだけで、店の運営はアルバイト採用も含めほとんどが店長に権限があります

また、ジュンク堂は会議をしません。
一般的な書店チェーンは全店長会議などをして、売り上げの報告をしたりします。

ジュンク堂の考え方は営業実績といっても、大型店と中小店ではそもそも事情が違うから参考にならない。
成績の悪い店の店長にとっても会議はプレッシャーになるばかりで得られるものが少ない。

形式的なものは入社式以外にまったくしない。これがジュンク堂の運営の特徴といえます。

ジュンク堂の理念がもっと広まって欲しい

長くなってしまうので、そろそろ締めくくりにかかりたいと思います。
とはいえ、ジュンク堂の魅力についてはまだまだ紹介しきれていません。

  • ・「アルバイトがきちんと評価される仕組み」
  • ・「ISBNを読み取って売り上げ管理をしたのはジュンク堂が初めてである」
  • ・「競売大会や社員旅行」
  • ・「採用のやり方」
  • ・「FOCUS論争とジュンク堂」
  • ・「社名の由来となった工藤淳の話」

…などなど書ききれません。

出版業界にいる方には、ぜひ一読してもらいたい1冊です。
とはいえ2002年の本なので、手に入れば幸い…すんません。

(※記事内の情報はすべて本書に基づいており、現在は変更となっている可能性があります)

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