書店員→営業部?! 有隣堂の人事異動は書店員の消滅を予言している

本が売れない時代になり、本屋はさまざまな収益源を模索しています。
その最たる例はカフェ併設型の本屋ですが、最近は本屋の店売以外で会社の収益を補うモデルが注目され始めています。

新文化の記事(2016年2月25付)によれば、神奈川県に本社を置く有隣堂の外商部が近年、売り上げを伸ばしているようです。

記事では有隣堂の松信健太郎専務がインタビューに答えるかたちで、外商部の売り上げについて述べています。

同社の売上高・収益の50%は、実は事務機器やオフィス通販などを手がける「外商」部門が担っている。(中略)「『書籍販売』を除く、外商の売り上げ比率は、少しずつですが年々増えてきています。トレンドとして書籍・雑誌の売り上げが減ってきている影響があります。」

”有隣堂=本屋”というイメージが強いですから、「有隣堂って本屋以外もやってるの?」と驚く人も多いかもしれません。
じつは店売以外にも外商部が文具やOA機器の販売を行なっているわけですが、その外商部が有隣堂の売り上げの半分を占めているというから驚きです。




書店員が”本とは無関係”の営業部に?

外商部が売り上げを立てて本屋の売上減少を補っているわけですから、これはこれで良いニュースです。

しかし、これは特に書店員にとって大きなインパクトを持って受け止められるべき事実だと思います。
なぜなら、書店員として働いていた人が突如、営業部に配属される可能性があるからです。

「いやいや、そんなこと言われたって書店員が営業をするなんて無理だよ」

という声も聞こえてきそうですが、実際のところ有隣堂では【営業部⇔書店員】という人事交流がすでに行われています。

7年ほど前から、現場クラスから管理職まで、制度として部門間交流を行なってきました。

若干わかりにくい表現ですが、ようするに「書店員が営業部に配属されることもあるし、その逆もすでにやっているよ」ということです。

もちろん、どの書店チェーンでも本屋の売り場(書店員)から本部(営業部や仕入部)へ異動になるというケースは以前からあります。

しかし、有隣堂の人事異動で注目すべきは、”本とは無関係の”オフィス機器や事務用品の営業部に配属される可能性があるということです。本という商材を扱える従来の【店舗⇔本部】の人事異動とは、大きなちがいがあります。

現在の有隣堂の組織体系は60年以上前から続いていますから、他の書店チェーンがすぐに同じような体制に移行することは考えにくいでしょう。

しかし、本の売り上げだけでは経営が厳しくなる書店業界で、今後多くの本屋が多角経営をはじめると仮定した場合、現場で働いていた書店員が営業部に人事異動させられる可能性は十分に考えられます。

書店員から外商部への”人材流出”が加速する

ちなみに有隣堂の松信専務は外商部と店売の部門について以下のように述べています。

各部署とも、常にどう成長していくかを考えているので、店売とは関係なく外商単独の青写真を描いています。(中略)経営資源を外商部門に集中させるとか、戦略的に外商の比率をあげようなどとは考えていません。

現時点では、書店員と営業部の割合を現状維持するというビジョンを持っているようです。
しかし、今後本の売り上げがますます減少していくことを考えると、書店員の”枠”がどんどん減っていくことも十分に起こり得ます。

実際のところ、松信専務は以下のようにも述べています。

出版物のマーケットが厳しいなかで、建て直しのための余力が欲しい。それを、短期的には外商部門に求めているということは言えます。

”短期的には”という断りがありますが、外商部が店売部門の売り上げ減少を補っているのは事実です。
現状が「書店員:外商部=5:5」だとすると、それが「4:6」や「3:7」になっていく可能性は十分にあります。書店員というプロが失われ続ければ本屋は荒廃し、負のスパイラルで本の売り上げが激減するでしょう。

書店員の仕事は書店員自身が守るしかない

有隣堂の組織体系を批判するつもりはまったくありません。有隣堂は多部門の組織で社会に貢献しているわけですから。
論点はそこではなく、ここで論じたいのは「書店員という仕事をどれだけ守っていけるか」ということなのです。

それぞれの仕事に優劣をつけるつもりはありませんが、本が好きで書店員をやっている人が、果たして本とは無関係の仕事を続けられるでしょうか。そして、書店員という仕事が消えてなくなった世界をわたしたちは受け止められるでしょうか。

私の個人的な考えでいえば、書店員として会社に入った以上はずっと現場で本を売りたいなと思います。
それが本という商材を扱う外商への異動であればまだしも、本とは無関係の事務用品やオフィス機器の営業を任じられるのは耐えられません。

この現実を「会社の辞令だから仕方ない」と受け流すのは簡単です。
しかし、書店員として一生仕事を続けたいのであれば、本で売り上げが立てられる業界へと一人ひとりが意識を向ける必要があるのではないでしょうか。

もうこれ以上、「紙の本が売れない」と語りたくはありません。