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助けて営業さん!コンピュータ書の版元がもっと書店員を支えるべき理由

公開日:2016/12/29 
コンピュータ書担当の苦悩

わたしは自分の経歴を説明するときに、「都内の本屋でコンピュータ書を担当して、それで…」と話すことがよくあります。

しかし、聞き手は決まってこう聞いてくるのです。

「え、ちょ、コンピュータ書ってなに?」

このように聞かない人でも、必ず怪訝そうな顔をします。いわゆる”なんだよ、コンピュータ書って顔(ヅラ)”です。

こんな感じの日々を送っていると、”コンピュータ書”という名称そのものの知名度の低さに愕然とさせられます。

わたし自身、コンピュータ書担当を経験したことで人生が変わりましたし、担当者として胸を張れるくらいコンピュータ書の勉強をしてきたという自負もあります。だからこそ、コンピュータ書ってもっと面白いんだよと伝えたい気持ちもある。

そんな私が、いろんな書店のコンピュータ書売り場をまわって感じることは「もっと担当の人に知識を教えてあげなきゃダメだよね」ということ。

そして、それを担うべきはコンピュータ書版元だと思っています。

今回はコンピュータ書特有のむずかしさを取り上げながら、もっと出版社と書店員が密になって連携すべきだよね、というお話です。

コンピュータ書の特質上、プログラミングの専門用語も出てきますが、どうぞお付き合いください。あと、この記事めっちゃ長いです。

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そもそも、コンピュータ書ってなに?

コンピュータ書そのものを理解していない人も多いですから、根本から説明したいと思います。

コンピュータ書とは、あらゆるコンピュータに関する使い方や知識を説明している本のことです。

具体的には以下のような内容の本です。

  • ・Microsoft Officeの使い方
  • (「Word」「Excel」「PowerPoint」など)
  • ・ウェブサイトの作成方法
  • ・映像制作の方法
  • ・プログラミング言語の解説
  • ・サーバーやネットワークの解説

あくまでも一例ですが、こんな感じです。ここではわかりやすい例をあげましたが、実際にはもっとエグい専門用語がたくさん出てきます。

「本」と聞くと、多くの人が文芸書や実用書などを思い浮かべるわけですが、コンピュータやその周辺について書かれた本も「本」なんですよ。そういった先入観(というより、そもそもコンピュータ書にふれる人が少ない?)がコンピュータ書の知名度の低さにつながっているのかもしれません。

最近は、コンピュータについての疑問はインターネットで検索すればスグに解決策が見つかるようになってきました。そのため、コンピュータ書の売り上げは低迷しています。

とはいえ、秩序立てて説明されている本の強みはまだまだありますし、なにより難解なプログラミング言語などは専門書が大きなアドバンテージを持っています。

なぜコンピュータ書の担当者は苦戦を強いられるのか?

さて、ここからはコンピュータ書担当者を悩ませる原因、棚づくりに苦戦を強いられる理由についてくわしく見ていきましょう。

  • ・予備知識がほとんど役に立たない
  • ・専門用語がむずかしすぎる
  • ・”知っている前提”の解説書が多い
  • ・棚の分類がむずかしい
  • ・1冊1冊が重くて腕がパンパン
  • ・技術進歩が早いので、本の寿命が短い
  • ・お客さんからの質問が専門的すぎてツライ

予備知識がほとんど役に立たない

本の陳列方法や見せ方、在庫管理やPOPのスキルなどは書店員としての経験が十分に活かせます。

しかし、たとえ百戦錬磨の書店員であっても、はじめてコンピュータ書を担当するとなるとけっこう苦戦を強いられると思います。あくまでも想像ですが、コンピュータ書はそれくらい要求される知識が膨大だからです。

書店のジャンル担当者として”本物”を目指すのであれば、そのジャンルについてひととおり説明できなければいけません。なぜなら、知っていないと棚を分類できませんし、いま仕入れるべき本を理解することができないからです。

そもそもコンピュータ自体が実用書などに比べると身近ではありません。ですから、予備知識が役に立たないのはツライところ。

コンピュータ書担当としての基礎体力が身につくには、最短でも3ヶ月〜半年はかかると思います。

専門用語がむずかしすぎる

これはもう想像に難くないと思いますが、コンピュータ書の専門用語は難解です。
医学書に比べればまだマシかもしれませんが、カタカナやアルファベット表記の用語がどんどん出てきます。

たとえば、サーバの話だけを切り取ってみても以下のような用語があります。

  • ・DNSサーバ
  • ・FTPサーバ
  • ・プロキシサーバ
  • ・トランザクションサーバ

もちろん、それぞれを深いところまで理解する必要はありません。でも、棚分類をしたりお客さんからの問い合わせに対応するためには、最低限の理解は必要です。

「DNSってなに?ドメイン・ネーム・サーバ?なんのためにあるの?そもそもサーバってなんなの?あーーーー助けてーー!」と、わからない用語がわからない用語を連れてくるところは非常に厄介です。

”知っている前提”の解説書が多い

コンピュータの解説書に総じて言えるのは、知っている前提で話が進むことです。

たとえ”入門”や”初心者でも安心”なんてワードが本のタイトルに入っていたとしても、まったくアテになりません。

だから、書店員がコンピュータ書の勉強をするために本を読んでみても、その内容を理解するハードルは非常に高い。

さきほど説明したような「わからない用語が、さらにわからない用語を連れてくる」という状態に陥るため、半永久的にループから抜け出せません。

たとえば、OSの1つである「Ubuntu(ウブントゥ)」という用語の説明をWikipediaから転載してみましょう。

Ubuntu(ウブントゥ[6]、国際音声記号[ʊˈbʊntuː]; oo-BOON-too[7])は、Debian GNU/Linuxをベースとしたオペレーティングシステム (OS) である。Linuxディストリビューションの1つであり、自由なソフトウェアとして提供されている。

Debian GNU/Linuxってなに?Linuxディストリビューション?どゆこと?

こうなると、それぞれの単語をあらためて調べることになり、同じことが半永久的に続きます。

ようやく理解できる単語にありついた頃には「あれ、そもそも何を調べてたんだっけ?」と、起原がわからなくなるのです。

棚の分類がむずかしい

文芸書は作家別やテーマ別でおおかたの分類はタイトルなどの情報から推測できます。ビジネス書や実用書も然りです。

しかし、ここまで説明したとおりコンピュータ書はタイトルを見ただけでは分類ができないことが多い。

さらに、あたらしい技術について解説された新刊本などは、最初から調べて分類をしなければいけません。

余談ですが、わたしが書店を回っているときにコンピュータ書担当のむずかしさを痛感することがよくあります。それは、

「WordPressの本を、【Word】の棚に差してしまっている」

という状態を目の当たりにしたときです。

気持ちはよくわかります、私も最初は「WordPressってなんだよ、ふざけやがって、知るかよ」と思っていたものです。

まあ、ちょっとでも内容をパラパラ読めばWordPressが何かはすぐにわかることなんですけどね。

1冊1冊が重くて腕がパンパン

コンピュータ書は、大判サイズの本が多いため品出しや返品作業が大変です。同じ冊数を運んでいるのに、必要な力が全然ちがいます。

「書店員のツライところは、本が重いことである」という情報を発信すると噛み付いてくる人がいるので、あまり大きな声では言えないんですけど。

「本が重い、なんてことを言っていたら書店員なんか務まらない」という正論しか言わない人って、本当つまらないですよね。

技術進歩が早いので、本の寿命が短い

文芸書などは、時代背景による流行り廃りはあるものの、昔の作品でも十分に読める内容です。なんなら、古い本だからこそ重宝がられることだってあります。

一方、コンピュータ書は鮮度がモノを言う商材です。1年前に刊行された本がいまや古い内容になっている、なんてことは日常茶飯事。

それだけ棚のメンテナンスが重要になってきますし、いま流行っているコンピュータ技術をキャッチしなければいけません。

古い本はきちんと返品する。簡単なようですが、これがけっこう大変。とくに蔵書量の多い大型書店ではなおのこと。

お客さんからの質問が専門的すぎてツライ

決して文句を言うわけではありませんが、お客さんからの問い合わせがけっこうシビアだったりします。

「書店員 = 本のことなら何でも知っている」

という認識ならまだしも、

「書店員 = 専門分野のスペシャリスト」

という認識はけっこうツライ。

コンピュータ書のおおまかな知識は知っていても、「Webサービスを開発したいんだけど、RubyとPythonどっちがいいですかね?」という質問はさすがにね。まあ、いまはPython優勢みたいだけど。

書店員だけでは限界!コンピュータ版元さん、助けて!

わたしはいま、コンピュータ書を担当したことがキッカケでウェブサイトをつくるようになり、初歩的ながらプログラミングも使ったりしています。

こうして成長できたのは自分自身の努力のおかげ…と言いたいところですが、実際はコンピュータ書版元の営業さんに助けられたことが大きかったです。

じゃあ出版社の人が書店員になにを手助けすればいいのよ?ということですが、大きく分けて3つあります。

  • ・新刊や新技術の解説
  • ・正しい棚の分類
  • ・基礎知識の解説

新刊や新技術の解説

出版社の営業という仕事は、書店から注文を取ってくることです。
そのとき、新刊やそれまつわる新しい技術の解説を書店員にしなければいけません。

いまでいえば人工知能が盛んですから、「機械学習」「ディープラーニング」あたりの知識を授けてほしいですね。そのためには営業の人も勉強が必要です。

正しい棚の分類

出版社の営業担当として、自社の本が書店のどこに分類されているかは非常に重要です。意図しない棚に分類されてしまうと機会損失が発生してしまいます。さきほどの例のように、Wordの棚にWordPressの本が入っていたら、その本は売れませんよね。

まだ知識の浅いコンピュータ書担当が、まちがった棚分類をしていたらそれを正しい方向に導く必要があります。もちろん、どのジャンルにも言えることですが、コンピュータ書はさらに手厚いサポートが必要だと思います。

この棚分類のレクチャーは非常に重要で、わたしは幾度となく出版社の営業さんに助けられました。

基礎知識の解説

さきほど「専門用語がむずかしすぎる」と説明しましたが、文献やウェブサイトの検索だけで知ろうとするのは限界があります。やはり、対面でわかりやすく説明してもらったほうが理解は深まるでしょう。

たとえば、C言語とC++はなにがちがうのか?Visual Basicってなんなのか?サーバとネットワークってどうつながってるの?

などなど、出版社が書店担当者を育てるくらいのつもりでレクチャーすると良いと思います。もちろん、少ない時間で限界はあるでしょうが、知らないことを教える姿勢はコンピュータ書版元に求められます。

個人的な話ですが、わたしがコンピュータ書を担当していた書店は出版社の営業さんに本当に恵まれていました。特に秀和システムのKさん、翔泳社のSさんには心から感謝しております。

大型書店には特に手厚くすべき

とはいえ、ここまで書店員と出版社の営業が密になれるのも大型書店や都心部の書店に限られると思います。

そもそも、中小書店ではコンピュータ書の扱いがないこともありますし、手厚いサポートをしても費用対効果が薄いことも考えられるからです。

ですから、大型書店、特にコンピュータやインターネット関連の企業や学校の近くにあるお店のコンピュータ書売り場は手厚くサポートすべきです。

コンピュータ書の売場づくり、売り上げの低迷にあえぐ本屋を救うのは出版社のサポートにあるのかもしれません。

 


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