紀伊國屋書店が直接仕入れを本格化?買切りのメリット・デメリットとは

紀伊國屋書店が村上春樹の新刊を直接仕入れ(買切り)したことが、以前話題になりました。

それを評価する声が出版業界で高まった影響によって、紀伊國屋書店は今後も直接仕入れを増やしていく方針です。

直接仕入れをすると一体どんなメリットがあるのか?
また、書店・出版業界にどんな影響を与えるのか?

紀伊國屋書店の買切りから見る、業界の今後を考えてみます。




書店が出版社から直接仕入れるメリットは?

そもそも、本は以下のような流れで流通しています。

出版流通の仕組み

出版社がつくった本は、取次(いわゆる問屋)を通して書店に配本されます。
今回の紀伊國屋書店の直接仕入れという取り組みは、取次を飛ばして【出版社⇔書店】というやり取りで完結することになります。

まずは書店が出版社から直接仕入れることのメリットについて見ていきましょう。

  • ・取次を通さないので利益率が高くなる
  • ・特定の本を自社で独占的に販売できる
  • ・ネット書店への対抗(リアル書店の客数UP)
  • ・大量に買切るとマージン(正味)を上げられる

取次を通さないので利益率が高くなる

さきほど説明したとおり、本の流通には出版社・取次・書店が関係しています。
従来のやり方だと、1冊の本に対して出版社が60-80%、取次が10%前後、書店が20%前後の利益を得ています。

書店が出版社から直接仕入れることで、取次の利益10%前後をカットすることができるので、書店の利益がアップします。

特定の本を自社で独占的に販売できる

今回の紀伊國屋書店の「村上本買切り」のような、初版の9割を買い取るようなケースでとくに顕著なのが「独占的販売」です。

他社にも本を流通させはしますが、ほとんどは自分の書店で独占的に販売します。

売れる本に当たれば、自社だけで売り上げを囲い込むことができるのは大きなメリットです。

ネット書店への対抗(リアル書店の客数UP)

今回の紀伊國屋書店のメインとされているのが、アマゾン対策です。
初版10万部のうち、9万部を紀伊國屋書店が買切ってしまい、アマゾンへの供給を減らそうという考えです。

『職業としての小説家』の発売日にアマゾンをチェックしてみましたが、品切れにはなっておらず通常購入が可能でした。
よって、アマゾンを締め出すような劇的な効果が上げられたかは疑問ですが、少なからず影響はあるといえます。

また、買い切ることによる宣伝効果もあります。
いわば「ウチでしか買えないので、紀伊國屋書店に足を運んでください!」というアピールができます。

そのアナウンスによって客足・客単価がアップして、全体の売り上げに貢献することが可能。

さらにいえば、来てくれたお客さんに「ああ、やっぱりリアル書店っていいな」と思ってもらうことが、最も重要です。

大量に買切るとマージン(正味)を上げられる

出版社と書店がどのような条件で契約を交わしたのかは定かではありません。
しかしながら、一般的な取引条件を考えると、大量に仕入れることは「仕入れコストの引き下げ」につながります。

よく「大量仕入れでお安く提供しています」といったセリフを耳にすることがあるかと思いますが、まさにそれです。

出版社は書店からの返品リスクがゼロになるので、利益率を多少下げたとしても十分にメリットがあります。

書店が出版社から直接仕入れるデメリットは?

直接仕入れという、紀伊國屋書店の試みにはメリットも多いですが、デメリットも少なくありません。

書店の買切りによるデメリットは以下のとおりです。

  • ・在庫リスク(売れ残りの危険性)
  • ・取次に嫌われる可能性
  • ・ネット書店愛好者に嫌われる可能性

在庫リスク(売れ残りの危険性)

仕入れた本が返品できるというのは、書店業界ならではです。
その返品メリットは、買い切りにすることで失われます。

極端な話ですが、9万部の本が1冊も売れなければすべてが不良在庫になります。
返品できない買切り本は、売れる見込みがある作品でないとリスクが非常に高いといえるでしょう。

取次に嫌われる可能性

書店が出版社から直接仕入れるわけですから、取次は完全にスルーされます。
特に、ベストセラーなどの売り上げが期待できる本について「中抜き」されてしまうと、その影響は甚大です。

配本にかかる手数料収入がメインである取次としては、書店の直接仕入れを当然嫌います。

紀伊國屋書店は販売力・ブランド力がありますから、大きな影響はないでしょう。
しかしながら、取次が「今後は紀伊國屋書店への配本を減らす」といったような措置をとることも考えられなくはありません。

欲しい本が入ってこないのは、書店にとって機会ロスですから痛手になるでしょう。

ネット書店愛好者に嫌われる可能性

「リアル書店なんていらない。アマゾンだけがあれば十分」

こうした意見を持つ人は少なくありません。
あくまでも限定的ですが、インターネットで買える本が減ってしまうことに嫌悪感を持つ人もいます。

そういった人は「余計なことをしてくれるな。ネットで本を買えなくなる」と考えます。

また、地方では近くに本屋がないエリアが確実に存在しています。
そういった地域に住む人が、ネットで買えないと非常に不便に感じるはずです。

今後は買切りが主流になっていく?

買切りは、正直なところ出版社にはオイシイ話です。
確実に消化できるというのは、メリットでしかありません。

とはいえ、それに乗っかって本格的に買切りを始めることには慎重になるべきです。

今回の村上本のような「採算が取れる本」であれば問題ないでしょう。
しかし、出版社と書店の直接仕入れが当たり前になってくると「売れもしない本」を買切りにするような習慣が生まれる可能性があります。

「まあ、今回の本もなんとか売れるでしょう」なんていって買い切りにして、まったく売れなかったときは悲惨です。
書店がすべてのリスクを負うわけですから、経営的にも危うくなります。

書店が潰れると、出版社も死活問題になります。

一度味わったオイシイ思いに引きづられることなく、買い切りには慎重になるべきです。
返品ができるというメリットに、あらためて目を向けるべきではないでしょうか。