法律違反になる?紀伊國屋書店の「村上本」買切り問題

紀伊國屋書店(東京都・目黒区)が村上春樹さんの新刊を出版社から直接仕入れて、ほぼ独占販売するようなかたちを取ったことが話題になりました。

2015年9月10日に発売された村上春樹『職業としての小説家』。
スイッチ・パブリッシングから発売されたわけですが、初版10万部のうち9万部を紀伊國屋書店が買い切るという、いままでにない手を打ってきたのです。

こうした紀伊國屋書店のやり方が「法律違反なのでは?」という声も上がっています。
ここで、あらためて紀伊國屋書店の狙いについて整理し、法律的に問題はないのかチェックしてみましょう。




なぜ9万部も買い切る必要があるの?

そもそもの話ですが、なぜ紀伊國屋は9万部もの本を買い取るのでしょうか?

最も大きな理由は「アマゾンへの対抗策」と言われています。

あらためて強調する必要もないでしょうが、いま本屋の売り上げが激減しています。
その原因はさまざまですが、アマゾンが既存の本屋に大きな打撃を与えていることは言うまでもありません。

紀伊國屋書店としては「アマゾンばかりに良いようにはさせない」という考えがあったのでしょう。
それが今回の買切り策へとつながっています。

わかりやすくいえば、村上春樹の新刊を紀伊國屋が独占販売して、アマゾンには売らせないということです。

細かくいえば、9万部のうち3〜4万部を紀伊國屋書店が販売して、残りを他の本屋に回すとのこと。

紀伊國屋書店が、ほかの本屋と一致団結してアマゾンへ対抗するとも言い換えられます。

紀伊國屋書店の独占禁止法違反?

発表を聞いたときは、ずいぶんと大胆な行動に出るものだなと驚きました。
しかし、この施策が法律に違反するという声も一部ではあがっています。

価格競争を公正に行えるようにするための「独占禁止法」という法律です。

今回のケースでいえば、紀伊國屋書店がスイッチ・パブリッシングから初版のほとんどを買い取ってしまいます。
ほかの本屋に商品が行き届かないことになります。

それによって、価格競争が起こらないので紀伊國屋書店がおいしい思いをするという考え方です。

不公正な取引方法のなかでも問題になる違反類型がいくつか考えられますが、本件で、独禁法上問題になるかどうかは、紀伊国屋書店が、買い取りに関連して出版社に対して何らかの働きかけを行っているか否か、また、その内容・程度がポイントになるでしょう

弁護士ドットコムの籔内俊輔弁護士によれば、法律違反となるのは紀伊國屋書店がスイッチ・パブリッシングに「初版をウチに卸してくれないと
、今後は御社の本を紀伊國屋では売りません」といった条件を持ちかけたかどうかによって判断が分かれるとのことです。

「本は再販売価格制度の対象になっているから、関係ないのでは?」と思う人も多いはずです。
わたしもそう思いました。

しかし、前述の薮内弁護士はこう語ります。

ネット書店では、ポイント制度などを利用して、実質的に書籍をリアル書店より安く売っているケースも少なくありません。価格競争はあるといえるでしょう

アマゾンで購入できないことで不便な思いをする消費者は多いはずです。
紀伊國屋書店以外の本屋にも流通はするようですが、遠方に住んでいてそもそも近くに本屋がない人も近年は増えています。

そういった人がアマゾンではない本屋から買わなければいけない事態というのは、正直いかがなものかとも感じます。

ただ、独占禁止法という「公正な価格競争」というところから考えると、法律違反とは言いにくいのではないでしょうか。

今回紀伊國屋書店がおこなう買切り施策によって、本屋に足を運ぶ人が増えることは間違いないでしょう。
ただし、そこで戻ってきてくれたお客さんに「本屋の良さ」をしっかり伝えることができなければ、単発で無意味な施策になりかねません。

今回の村上本でお客さんに「本屋の良さ」を伝えて”リアル書店回帰”を促さなければ、今回の施策は無駄撃ちに終わります。

一朝一夕ではなく、日頃からお客さんが来たいと思える本屋づくりができているかが問われそうです。