書店員の仕事は「読んでない本でも読んだフリをすること」である

本屋の仕事は、どうやらラクして金が稼げると思われているようです。
レジに立って本を売って、在庫が入荷すればお店に並べる。多少重い荷物もあるけど、他の小売業よりはずっとラク。

そんな印象を持たれるのは、仕方がないのかもしれません。

しかし、ラクチンだという認識が一般的になってしまっているのは本来やるべき書店員の仕事をまっとうしていない人が多いということでもあります。

つまり、ハタから見たときにラクに見える仕事しかしていない。そういうことです。

でも、書店業を突き詰めてプロ意識を持っている人はたくさんいます。
書店員の仕事はさまざまです。レジ打ち、発注、商品陳列など多岐にわたりますが、個人的には「読んでない本でも読んだフリをすること」、これがプロの書店員に求められる能力だと思っています。

これができるかできないかで、書店員の仕事の質は大きく左右されます。
そして、”フリ”ができる書店員になるまでの道のりは決してラクではないはずです。

「読んでない本でも読んだフリをすること」とは一体なんなのか?書店と他の小売業を比較しながら、書店員の仕事を考えてみましょう。




本屋とコンビニのちがいとは?

書店員が他の小売業とちがうのは、扱う商品の性質にあります。

これはコンビニやアパレルなどの小売業と比べるとわかりやすいかもしれません。
食べ物や洋服などは、外見から得られる情報が非常に大きいので販売するときに必要な知識は比較的カンタンに手に入れることができます。

新発売のお菓子であれば、買って食べてみればすぐにわかります。
新作の春服であれば、デザインとブランドを理解していればある程度はお客さんに提案ができます。

つまり、商品情報を手に入れるための時間・労力が非常に少なく済むのです。

本の中身を推測する力

一方の書店員はどうでしょうか?
入荷してきた本は基本的に知らないものばかりです。タイトルである程度の推測ができるかもしれませんが、それはごく一部の本だけ。

文芸作品になればタイトルだけでは到底理解できません。となると、時間をかけて中身を読まないといけないわけです。

とはいえ、毎日200点もの新刊が発売されるという出版業界において、すべての本を読むことは不可能です。
そのため、読んでいない本の中身を理解する力(読んだフリができる能力)が必要になってきます。

ジャンル分けにも知識と経験が試される

お菓子や洋服とはちがって、本は中身を知らないと分類ができません。つまり、正確な場所に陳列できないわけです。
ジャンル分けが正確でない本屋は、売り上げに悪影響を及ぼします。

ですから、ある程度中身に”あたり”を付けて分類する力が試されます。

お客さんからの問い合わせは大きな試練

ジャンル分けのほかにも、読んでない本を理解する力が試される場面があります。
その1つがお客さんからの問い合わせです。

単純な在庫照会だけであればスグに終わるのですが、試練となるのは「◯◯について調べたいんですけど、オススメの本ってありますか?」という問い合わせ。

個人的にはこの問い合わせが、もっとも書店員の知識と経験が試される瞬間だと思っています。

読んでない本でも”あたり”をつけられる書店員であればスグに答えられますが、この力がない書店員にとってはかなり難しい質問です。

お客さんは「書店員=本について何でも知ってる人」というつもりでお店に来ているケースがほとんどなので、上手く回答できないと失望されることすらあります。

本の内容がわからないときは「中身については答えられません」と言えばそれで済む話なんですが、それはやっぱり悔しい。
書店員として働いている以上、お客さんの問い合わせに答えるというのは大きなやりがいでもあるわけですから。

お客さんの問い合わせに対応できるとやっぱり嬉しい

わたしが書店員としてコンピュータ書を担当していた時代のことです。
お客さんから「C言語の本をさがしているんですけど、どの本がわかりやすいですかね?」という問い合わせを受けたときのこと。

わたしはヒマを見つけては本の中身をパラパラと読んで内容を知っていたので、幸いなことにオススメのC言語本について具体的な説明をすることができました(正確に言うと、そのC言語の本のタイトルが強烈だったのでたまたま空き時間に読んでいただけなのですが)。

こうした経験もあったことで、読んでないけど説明する力(読んだフリをする能力)が書店員には必要なのだ、ということを痛感したのでした。

読んでない本を理解する方法とは?

ここまでお読みいただいて「読んでない本に”あたり”をつけるってなに?」「読んでない本をどうやって理解しろと?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

読んでない本、というのは正確に言えば「お金を出して(購入して)読んだわけではない本」ということになります。

身銭を切って本を買えば、たとえつまらない本でも通読することが多いでしょうから中身は理解できます。
しかし、購入してない本でもおおよその中身を理解する力が書店員には必要なのです(もちろん、本は身銭を切って買うべきですが、すべての新刊を買うことはできません)。

ではどうすれば読んでない本でも読んだフリをすることができるようになるでしょうか?

これは読書術などにもつながってきますが、大きく分けて3ステップあります。

  • 1. 目次を読む
  • 2. 重要なポイントを抑える
  • 3. 出版社、著者をチェックしておく

本屋で仕事をしているスキマ時間に本の中身を理解する必要があるので、当然ながら1ページ目から順番に読む時間などありません。
そのため、まずは目次を読んで、重要と思われる箇所をピックアップします。

そして、各ページの見出しを見て引っ掛かりがあるところをチェックしておくのです。
このとき大切なのは「類書にはない、差別化できそうな内容はないか?」という視点で読むこと。

基本的に、いまや類書がない本はないのですが、それでも「この本は類書にはない面白さがある!」という発見ができるとベストです。
これがあると、お客さんからの問い合わせや商品を陳列するときにも自信を持って臨むことができます。

店頭で本を読む書店員はけしからん!

本屋に行くと、たまに「なんだよアイツ、仕事中に本読んでるじゃねーか」という書店員に遭遇することがあるかもしれません。

しかし、少し広い視野で考えて欲しいのです。その書店員はもしかしたら商品知識を得るために本を読んでいるだけかもしれないと。

もちろん中には仕事中に暇だから”娯楽として”本を読んでいる人もいるかもしれません。そういった人は”喝!”なんですが、ほとんどの書店員は商品知識を得るために本を読んでいるのです(と、信じています)。

本屋で本をパラパラ読んでいる書店員を見かけても「仕事熱心な書店員さんね」と、優しい気持ちで接してあげてください。