【出版営業絶滅論】出版営業という仕事は、やがて死に絶えてしまうのか?

わたしは約2年間、出版社の営業として本屋や取次を担当していました。

本屋は大好きですから、趣味と仕事が合わさったような時間はとても充実していたことを覚えています。

しかし、そんな出版営業の仕事がいま危機に晒されています。
近い将来、出版社の営業がなくなるという説がまことしやかに囁かれているのです。

じつは、こうした議論は以前からたびたび取り沙汰されていました。
出版社自体の経営が危ないと言われているくらいですから、真っ先に切られるのは出版営業というわけです。

本当に出版営業という仕事は絶滅してしまうのでしょうか?今回は出版営業絶滅論を考察してみたいと思います。




出版社の営業がもっとも求められる仕事内容とは?

わずか2年ほどの営業経験ですが、わたしなりに「出版社の営業ってこういう事を求められているんだ」と感じることがあります。
それを今回ご紹介し、出版営業絶滅論に決着をつけようではありませんか。

まず出版社の営業に求められる仕事内容を3つにまとめてみます。

  • ・自社本の売り上げアップ
  • (各書店や本部、取次からの受注)
  • ・編集者へのアドバイス
  • ・担当書店へのアドバイス

大きく分けると以上の3つに大別されます。
1つずつ具体的に見ていきましょう。

なお、ここでは出版社の営業のみが絶滅した世界を前提に話を進めていきます。
「出版営業が死に絶えるときには本屋もなくなってるのでは?」という仮定はここではなしにしておきましょう。

自社本の売り上げアップ(書店や取次からの受注)

”営業”という名がつく職種ですから、まず求められるのは「数字」です。

自分が担当する書店からの受注はもちろんのこと、本部からの大型受注など「売り上げ」が求められます。
あるいは取次を担当しているのであれば、日販やトーハンからの受注も大きな数字につながります。

実際には本屋から返品されることなく実売が達成されて初めて売り上げとなるわけですが、ここではあくまでも「受注=売り上げ」としておきましょう。

出版営業が絶滅したとき、書店員の力が試される

では、出版営業が絶滅した場合、書店はどうなるでしょうか?

まず営業が能動的に取ってくる本屋からの注文はなくなります。
結果的に、書店員が自分の店で売れると思った本を自身のみで注文します。

つまり、書店員の「目利き」だけで売り上げを立てないといけません。
書店としては情報が圧倒的に少なくなりますから、手探りの状態になることは避けられないでしょう。
いわゆる他店(他チェーン)の売り上げを知る機会は、ほぼ剥奪されます。
(もっとも、地方で営業が来ない書店は常にそんな状態ではある)

ただし、出版営業が嫌いな書店員にとっては理想的な環境となり、溜飲が下がるでしょう。

出版社の売り上げが低迷して、ほかの収益源が必要となる

さらに出版社の営業がいなくなると、自社(出版社)の本の売り上げ(本屋からの能動的な受注)がなくなります。

よって出版社は本屋からの売り上げに頼ることができなくなり、ネット書店へ力を入れることになります。
あるいは売り上げに占める電子書籍の割合が多くなることでしょう。

出版営業にかかっていた人件費を、宣伝費や広告費に回すことも考えられます。
話題性を呼ぶテーマが求められ、コンテンツ重視の本が多くなる可能性が高くなります。

出版社は「脱・本屋」を図らなくてはならない状況になるでしょう。

編集者へのアドバイス・情報提供

これは出版社の社風や社内の規律にもよるでしょうが、わたしが働いていた出版社では「営業から編集者へのアドバイス」が求められました。

その最たる例は「カバーデザイン」です。
本屋であろうとネット書店であろうと、あるいは電子書籍であろうとカバーデザインは重要です。

そのうち、出版営業は「本屋で並べたとき、読者の目にどう映るか?」をアドバイスします。
たとえば類書に対してインパクトが弱いとか、店頭で平積みしたときに目に止まりにくいとか。

こうしたアドバイスは、本屋を回っている出版営業の情報が大いに生かされるわけです。

ほかには、書店員からのフィードバックを編集者につなぐ役割を出版営業が果たすこともあります。
営業で手に入れた「書店員の声」を、編集者に伝えて本づくりに生かしてもらうわけです。

絶滅後、編集者が自分の足で情報を集めるようになる?

出版営業が果たす役割の1つに「編集者へのアドバイスがある」と説明したばかりですが、個人的には出版営業が絶滅したとしてもこの点は問題ないと考えています。

なぜなら、出版営業のアドバイスがなくなったからといって、編集者が自分よがりな本ばかりを作るとは思えないからです。

カバーデザインにしろ、本づくりの意見にしろ、編集者が自分で情報を集めることは可能です。

もちろん、出版営業の絶滅によって人員的な負担は増すことになります。
しかし、編集者の主体的な情報に基づいてつくられた本のほうが完成度が高い可能性も十分にあるわけです。

便宜的に「編集者へのアドバイス」を出版営業の仕事に入れましたが、これについては絶滅しても問題はないといえるでしょう。

担当書店へのアドバイス・情報提供

出版営業が自分の担当書店へアドバイスをすることはWin-Winの関係です。
自社の本が売れることにもつながるし、書店の売り上げにも貢献できます。

出版営業が行う担当書店へのアドバイスとは、主に以下のような内容です。

  • ・新刊、既刊の売れ筋を案内
  • ・展開の仕方やジャンル分け
  • ・他店の売上状況を教える
  • ・POPや什器の提供

このうち、特に重要度が高いのは「展開の仕方やジャンル分け」「他店の売上状況を教える」の2つです。

「展開の仕方やジャンル分け」というのは、わかりやすくいえば自社の本をドコに展開するべきか?ということ。
書店員は毎日膨大な新刊・既刊と戦っています。そのなかには「この本はドコで展開すると売れるんだろう?」とか「Cコードだけじゃジャンル分けできないよ」と迷うことも少なくないわけです。
そういった悩みは、出版営業が解決してあげる必要があります。

「他店の売上状況を教える」というのは、いまのトレンドを伝えるということでもあります。
書店員に比べて、出版営業は他店の売上状況に精通しています。
ですから「いまこの本を並べないともったいない!」という銘柄を知っているわけです。
そういった売り損じを防ぐのも、出版営業の役目といえるでしょう。

これは余談ですが、自分の出版社の本だけではなく、他社の本の売れ行き情報を伝えると書店員からの信頼を勝ち取れます。

ex)「◯◯社さんの本、かなり売れてるみたいなんで仕入れたほうが良いですよ!」

出版営業の絶滅で、書店員の情報力が試される

さきほど紹介した項目と重なりますが、出版営業が絶滅した場合、書店員の目利きや情報力が試されます。

上記で示した出版営業のアシストを受けられなくなった状況で、売れ筋やジャンル分けを明確に行える書店員の”明晰さ”と、自信を持って本を販売できる”胆力”が必要になるわけです。

書店員の負荷がかなり大きくなるので、売り上げを保つのはむずかしくなるでしょう。
よって、出版営業の絶滅によって本屋の売り上げが大きく落ち込む可能性は否定できません。

出版営業が意味のある存在になるために

ここまで出版社の営業に求められる3つの仕事をもとに、出版営業は必要 or 不要という分析を行なってきました。

結論を言ってしまえば、出版営業が絶滅しても何とかなります。死に絶えても、出版社や本屋の業務は滞りなく行われるでしょう。

しかし、長い目で見た時に本屋や出版社の質が低下することは避けられません。
なぜなら、出版営業が出版社や書店の「潤滑油」としての役割を果たしているからです。

では、出版営業が今後も長く生き続けるにはどうすればいいのでしょうか?
身も蓋もない話ですが、やはり地道に営業を続けるしかありません。

出版営業のなかには「受注が命」の仕事をする人が少なくないのが現実です。

悪くいえば「書店から返品されてもいいから、とりあえず納品だけして成績を上げておきたい」と考える人がいるわけですね。

これでは、絶滅必至でしょう。

書店員に「この人は頼りになる」と思ってもらうこと。
そして、実売につながる提案・受注を律儀にこなしていくことが出版営業の存続する唯一の道なのです。