出版社の営業を踏み台にして編集者を目指す「隠れ編集志望」の話

本が売れない時代と言われながらも、世には必ずベストセラーというものが存在します。
わたしがはたらいている出版社も、ありがたいことにベストセラーに恵まれているので営業としてのやりがいは大きいものがあります。

とはいえ、出版社の営業の地位はまだまだ低いと言わざるを得ません。

「出版社の仕事=編集の仕事」

出版社に対する世間のイメージはこの図式に違いありません。
出版業界の花形はいまだに編集者ですし、きっと今後もそれは変わらないでしょう。

出版社を志望する人の大半が編集を志望しているという前提のもと、今回は「出版社の営業を踏み台にして編集者を目指す方法」というテーマでお送りします。





なぜ編集という仕事は人気があるのか?

営業は縁の下の力持ち。
ベストセラーが生まれて、それが新聞や雑誌などのメディアに取り上げられるときにインタビューされるのはほぼ編集者です。

営業の人間が取り上げられることも稀にありますが、十中八九は編集の人間です。

もちろん本づくりに最も近くから関わっているのだから当然といえば当然の話。
決して「営業にもっとスポットをあててくれ!」と申しているわけではありません。

たくさんの有名人に会えるのも編集の特権ですし、ドラマや漫画の題材になるのも編集の仕事。
「編集ってカッコイイ!」という風潮が広まるのは当然のことですし、実際にカッコイイ仕事です。

本当は地道な作業も多いのですが、ここでは編集の理想像を話すにとどめるということで…

営業職の募集をかけても、集まるのは「隠れ編集志望」

ここで出版社の編集者がいかに人気があるかを物語るエピソードを紹介したいと思います。

ある時期から、女性をふくめ、「営業をやりたい!」と口にする受験者が急に増えたのだという。で、さらに突っ込んで質すとたちまち化けの皮が剥がれ、判で押したように、こんな答えが返ってくる。「志望は編集ですけど、編集をやるには、やっぱり営業経験が必要だと思うんです。だから…」

つまりは、編集志望では倍率が高すぎる。営業志望で入社し、編集への配転を狙え。それには面接でこう言え。(中略)ここで営業職は、編集職への足がかりでしかない。実際、出版界志望の若者たちの頭の中に描かれる営業という職種は、大方がそんなイメージなのかもしれない。編集者というカッコイイ主役に対し、こちらは明らかな脇役。

(ともに産学社『出版ー2012年度版』より引用)

ふむふむ、これは非常に理にかなった応募動機だと思います。
実際に出版社にいて思うのは、編集者と営業は実務的な仕事内容は180度ちがうけど、目指すところは同じ「読者におもしろい本を届ける」なわけです。

編集者は営業の意見を求めますし、営業も編集者に気づいたことを伝えます。
ですから、出版社の営業を足がかり(踏み台?)にして、編集を目指すというのはまっとうですし、営業の現場経験はまちがいなく編集の仕事で生きてきます。

営業を踏み台にして編集者になるための4つの戦略

それではお待ちかね、営業を志望しつつ、本当は編集をやりたい人のために「営業を踏み台にして編集者になるための4ステップ」を紹介したいと思います。

1、営業から編集に異動する風土があるか確認せよ

隠れ編集志望」として戦うためには最低限の「土壌」が必要です。
まず確認しなければいけないのは、その出版社に「営業から編集への異動した前例があるか」ということ。
社風が保守的な場合はこうした自由な発想はきらわれますし、社内でそんな事を口走ろうものならイヤな目で見られる可能性すらあります。

ですから、これから「隠れ編集志望」として出版社の営業に応募する場合はその会社の内情をある程度知っておく必要があります。

2、営業として編集が喜ぶ情報ひたすら収集せよ

戦える土壌に無事、営業として入社したらやるべきことはなんでしょうか?
それはズバリ「編集部がよろこぶ情報をかき集めること」です。

先ほども述べたように、編集者は営業の意見をけっこう欲しがっています。
実際に営業に求められる意見の一例は以下のとおり。

  • 「新刊のカバーはどんなデザインがいいか?」
  • 「どんなタイトルにすれば類書と差別化図れる?」
  • 「どうすれば書店が喜んでくれる?」
  • 「次の新刊はどんな切り口でテーマを設ければいい?」

こんな質問を編集からされたら大チャンスです。
ここぞとばかりに編集者が喜びそうな情報を披露しましょう。

編集が助かる、よろこぶ情報を知っているというのは大きな武器になります。
日頃のこうした刷り込みが、編集への着実なステップになるのです。

3、社内メールで文才を発揮せよ

いくら編集目線の情報に長けていても、文章を書く才能がなければ話になりません。
もちろんあくまで編集ですから、文章を書く才能とはいってもおおげさなものではありません。

あくまでも最低限の文章の書き方を知っている必要があります。
段落や句読点、漢字のチョイスなど文章には色々なルールがあります。

こうした最低限の文章のルールをおさえた上で、仕掛けていきたいのが「社内メール」です。
仕事のメールは基本的に社外の人へ送ることが多いと思いますが、会社の規模によっては全社宛にメールを送ることもあります。

社内メールは営業の人間だけだなく、編集部の人間も読んでいます。
ここで自分の文章能力をいかんなく発揮しましょう。

注意したいのは才能を発揮しようと力んでしまうこと。変に文芸チックな文章も嫌われます。
こいつの文章、なんか心地いいな」と思われるくらいがベスト。

才能は発揮するものではなく、にじみ出るものです。

普段から才能を磨くための文章訓練を積み、にじみ出る才能を編集部にお届けしましょう。

4、ひたすら書籍の企画案を提出せよ

営業から編集への転籍が可能な会社なら、営業から編集部への企画案提出はおそらく歓迎されるはずです。
この、毎秒訪れているチャンスを逃す手はありません。企画を量産しましょう。

企画の切り口はさまざまです。
たとえば、自社の既刊を振り返ってみて「この分野の本は出てない」とか「類書がないテーマ」で企画を作成します。

編集の仕事はとにかく企画量が重要で、それを常に新刊ストックとしていつでも出せる状況にしておくのが理想です。

たとえ提出する企画がイマイチあったとしても気にする必要はありません。
編集部が見ているのは、あなたの編集への熱意です。とにかく、企画を考え出しまくりましょう。

まとめ

これから電子書籍が普及するようになれば、出版社の営業は不要になります。
そこで生き残り、必要とされるのは編集という仕事です。

仮に会社がつぶれてしまっても、編集の才能があれば食っていくことができます。
編集の能力は希少性があるので、たとえ出版社でなくてもいろんな分野で通用するはずです。

会社から独立して、著者ネットワークを形成し、オンライン上で編集の仕事を広く集めるのも1つの方法です。

無限に広がる編集の世界。さあ、営業から編集へ!