60歳で異例の文壇デビュー!還暦で人生を変えた作家に学ぶ成功の秘訣

「文壇デビュー」というと、何やらかっこいい響きがありますよね。

文章を書く人や本が好きな人の中には、その響きに憧れ「いつか自分の本を書店に並べたい」と思う人も多いと思います。

60歳、しかも自費出版からスタートし、商業出版でデビューした作家がいます。その名は天野節子。代表作『氷の華』がドラマ化された人気作家としても有名です。

作品が酷評される困難な時期を乗り越えて、彼女はどのようにドラマ化される作品を生み出したのでしょうか?




仕事をしながらの執筆…処女作完成までの4年間とは?

40年間幼児教育に携わり、還暦を4年後に控えたある日、天野氏は「書こう」と思い立ちました。

大好きな推理小説を1000冊以上読破する本の虫で、本に支えられる生活を送っていた頃のこと。
還暦という人生の節目を目前にして、彼女は「今までに経験しなかった世界を経験したい」と、執筆することを決意します。

「人生の節目で本を書く」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは「自伝」や「自分史」かもしれません。

しかし、彼女が書くことに決めたジャンル、それは他でもない推理小説でした。

愛読するアガサ・クリスティや松本清張のように、罪を犯さざるをえなかった人間の動機、つまり人間の弱さや脆さを描きだしたい――そんな強い思いを胸に秘めながら、作品の完成予定日を4年後、つまり60歳の誕生日と決めました。

仕事をしながら、夜はパソコンに向かい、休日返上で400万字を超える作品を書き上げます。完成したのが、あの『氷の華』でした。

日常生活では、誰しも口に出せない思いを抱えているもの。そんな思いを登場人物のセリフとして言わせる――そんな密かな楽しみも彼女にはありました。

執筆を続ける中で、まったく筆がすすまない半年間もありました。書いては消し、書いては消し…。暗中模索を繰り返す日々は、はたから見ると苦難の連続に思えます。

しかし、作品を書き上げた乗り越えた彼女はこう言います。

「それでも、楽しい4年間でした」

やっと書き上げた作品、わが子を酷評される苦難

4年間をかけて書き上げた作品。天野氏の中には、当然その作品を「本」にしたいという思いが募ります。

その方法として彼女が選んだのは、文学賞への応募でした。文学賞への応募は、いわば作家の登竜門。彼女の選択は当然といえば当然でした。

しかし、天野氏のもとに届いたのは受賞の知らせではなく、落選の連絡。そして、酷評ばかりだったのです。

「評価されなければそれもよし」と感じながらも、天野氏はある自費出版会社に原稿を持ち込む決心をします。

落選と会社の倒産。二度目の試練を乗り越えて

出版費用はかかるものの、還暦の誕生日に間に合うためには仕方ないと考えた天野氏。

出版社と打ち合わせを重ね、いよいよ刊行の見通しが立ったころ、まさかの事態が起こります。なんと出版社が倒産してしまったのです。

落選に次ぎ、出版社の倒産。試練が続きますが、天野氏はあきらめませんでした。

次こそはと原稿を持ち込んだのは、幻冬舎ルネッサンスという自費出版会社。

商業出版に遜色ない出版物をめざすべく、編集者によって原稿が見直されます。さらに装丁がデザインされ、ついに2006年9月、自身初の著作『氷の華』が発売され、1000部が書店に搬入されることになりました。

自分が書いた本が、書店に並んでいる―。その光景を見た彼女は天にも昇る心地で、至福の時間を過ごしました。

売れる瞬間こそ目にすることはできなかったものの、自分の本が並んでいる光景を書棚の近くでしばらく眺めたそうです。

鳴り止まぬ問い合わせ電話

発売後1か月経ったころから、予想をはるかに上回る問い合わせの電話が各方面から殺到します。

「ドラマ化したいのですが」
「映像化の予定はありますか?」

出版社は新刊が発売されるとプロモーション用に関係者へ本を送付しますが、その本を読んだ目利きたちから、絶賛の声が寄せられたのでした。

本を買ったお客さんだけでなく、本のプロからも認められる作品。想像以上の反響に沸いた幻冬舎ルネッサンスの編集部は、会社の本体である幻冬舎に『氷の華』を持ち込むことにしました。

これは売れるー。本を読んだ書店営業担当からもかなり前向きな意見が聞かれました。

しかし、本を売り出すにあたって1つだけ問題がありました。それは天野節子の作家としての知名度です。既にファンがついている作家の作品とは違い、デビュー作を印象づけるのは困難を極めます。

「この作品をなんとかして多くの人に読んでもらいたい」――その思いを叶えるためにはどうすればいいか。幻冬舎ルネッサンス編集部がとった策は、書店員さんに本を読んでもらうことでした。

お色直しで書店デビュー

本屋大賞は書店員という目利きが本を選ぶ文学賞で、受賞作は大ヒットを重ねています。やはり、書店員の評価は大きな影響力を持っているということです。

そこに目を付けた同社の作戦が功を奏します。実際に作品を読んだ書店員からもまた絶賛の声が寄せられたのです。

大ヒットの予想を確信に変えた編集部。その評判はやがて幻冬舎社長の見城徹の耳に届きます。

その後、いくつかの修正をほどこして、ついに幻冬舎から商業出版されることが決定したのです。

作品は順調に版を重ね、『氷の華』はテレビ朝日でドラマ化されるに至ります。自費出版からスタートした天野氏は、見事に作家としての成功を収めたのでした。

  • 天野節子
  • 1946年千葉県生まれ。初めて小説した『氷の華』は2006年自費出版からスタートした後、07年単行本として出版。その後、文庫化され35万部を超えるベストセラーとなる。ドラマ化され、62歳の大型新人として注目を浴びた。
  • 著作は、以下のとおり
  • 『氷の華』(幻冬舎ルネッサンス、2006/8 幻冬舎、2007/3)
  • 『目線』(幻冬舎、2009/6)
  • 『烙印』(幻冬舎、2010/12)
  • 『彷徨い人』(幻冬舎、2012/9)