出版業界の起爆剤?本の値引きができる「時限再販」とは

本は値引きができません。
出版業界では当たり前のこの決まりも、他の業界にはない何とも変わった仕組みです。

そんな「守られた」出版業界を大きく変えるかもしれない新しい取り組み。
それが【時限再販】です。

縮小をつづける出版業界にとって、時限再販は起爆剤になるのでしょうか。
今回はこの時限再販について、くわしく解説したいと思います。




そもそも時限再販ってなに?

はい、ではまず時限再販という仕組みについて説明します。

時限再販とは、出版物の価格拘束をなくすことです。
時限という言葉からもわかるように、ある一定期間を過ぎたあとは「本を自由に値引きしていいですよー」という仕組みです。

ということは、新刊で発売されたばかりの本は値引きできません。
値引きできるのは、あくまでも「一定期間」経ってからです。

なぜ時限再販なんていう仕組みが生まれたのか?

今の再販制度は出版社にとって有利です。なぜなら、本の価格が下がらないから。
価格競争になることはありません。
書店側に本の値引きをさせないことによって、本の価格を高く保つことができ、利益を多く手に入れることができます。

(そもそもの再販売価格維持制度についてくわしく知りたい方はこれでわかる!「再販売価格維持制度」のメリットと仕組みをごらんください)

それなのに、なぜ時限再販なんていう仕組みが生まれたのか?

「どうせ返品で書店から本が返ってきてしまうなら、値下げしてでも売り切ってしまったほうがいいよね」

これが、時限再販の考え方の根本にあります。

また書店としては「一定期間が経過すれば値引きができるんだから、返品しないで書店に並べておこう」という気持ちになるので、返品率を下げることにもつながります。

時限再販の問題点は?

書店側に自由に価格を決めてもらうという時限再販ですが、問題点はないのでしょうか。
課題は2つあります。

まず1つ目。実務においてやっかいなのが「時限再販の銘柄を把握すること」です。

書店に並んでいる本すべてが時限再販というわけではないので、「いつになったら値引きしていいのか」その銘柄を把握するのは大変です。

時限再販に積極的なのは株式会社MPD(カルチュア・コンビニエンス・クラブと日販の共同出資で設立された会社)ですが、今のところはMPDが時限再販に参加する出版社の面倒を見ているというのが実状です。

参加している出版社もサンクチュアリ出版、PHP研究所、フォレスト出版など少数にとどまっているので、何とかなっています。

もう1つ課題として挙がるのが、良い著者を確保することです。
時限再販は本の価格が下がるので、当然その分の印税も下がることになります。
それだったら、時限再販なんかしていない出版社から本を出そうとするのは自然な流れでしょう。

イメージの問題もあります。
もし自分が本を書いて出版する立場だったらどうでしょうか。

消費者の感覚として「値引きされている=売れ残り」というイメージがあるはずです。
自分の書いた本が値引きされて本屋に並べられているのは、気持ちのいいものではありませんよね。
つまり値引きによって、読者が持つ著者に対するイメージを悪くさせる可能性もあります。

  • ・「時限再販銘柄を把握するのが大変」
  • ・「良い著者の確保するのがむずかしくなる」

以上の2点が時限再販の課題です。
ただ、この課題は時限再販(値引き)があたりまえになってしまえば解決する問題でもあります。

時限再販に参加している出版社は実際うまくいっているの?

ここまで時限再販の仕組みについて説明してきました。
そこで気になるのが、実際にこれを取り入れている出版社の状況です。

時限再販でよく耳にするのがサンクチュアリ出版です。

サンクチュアリ出版が2013年の5月に出した『食べるならどっち?!』はMPDの店舗(わかりやすく言えばTSUTAYA系列の店)だけで3万部も売れています。

さらに驚きなのが、この本のMPDつながりの店舗からの返品率がなんと1%以下(!)ということ。
出版業界の返品率は40%〜50%とまで言われているので、この数字は驚異としかいえません。

こうした結果をふまえて、サンクチュアリ出版では今年のはじめからすべての新刊を時限再販にして発売しています。
新刊に「◯時マーク」(実際は◯の中に「時」が入る)をつけて発行し、MPD系のお店では時限再販を行っています。
それ以外の一般的な書店で時限再販は導入していませんが、いつでも時限再販を導入できる体制をととのえています。

時限再販の導入、そして再販制度はなくなるのか?

ここまで時限再販のメリットとデメリット、そしてサンクチュアリ出版の事例を見てきました。

出版業界の売り上げが下がっている原因はなにかと聞けば、返ってくる答えのほとんどが「インターネットの普及」です。
もちろんインターネットの普及によって、紙の本を読む人が減ったのは間違いないでしょう。
でも、出版業界の売上高が1990年代後半の2.5兆円をピークに下がり続け、そこから一度も売り上げ伸ばしていないのはインターネットのせいだけとも言えません。

出版社が新刊を乱発して資金繰りをするというサイクルが生まれてしまったことで、書店にはたいして面白くもない本があふれかえってしまいました。
こんなことをしていては誰も本を読んでくれなくなります。読者が離れて当然の状態、それがいまの出版業界なのです。

出版社は新刊の精度を高めつつ、新刊点数をもっと減らす。
なおかつそれでもきちんと経営が続くような仕組みを改めてつくり直す必要があるのではないでしょうか。

その仕組みの中で、時限再販をはじめとする本の値引きを上手くからめれば、出版業界全体がもっと緊張感を持って本のやりとりするようになるはずです。

本の値下げ自体は賛否あります。本の値下げを認めてしまうと、価格競争になってしまい、少ない部数・少ない読者の本が書店から消えてしまいます。価格の安くて売れる本ばかりが並ぶ書店も、これまた読者が離れる1つの要因です。

業界の慣例を変えるのは簡単なことではありません。出版営業の受注も、書店側の注文も返品も今はけっこうアバウトなので再販制度はラクちんです。
でも出版業界のことを本当に考えるのであれば、本の受注・発注・返品にもっとシビアにならないといけないのではないでしょうか。

そうした取り組みによって、書店にはもっと意味・意義のある本が並ぶようになり、読者とともに出版業界が広がっていくものなのだと思います。

【参考記事】文化通信2014年7月2日増刊より