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なぜ書店を支配する?日販とトーハンが本屋を欲しがる本当の理由

公開日:2016/09/29 
トーハンと日販の本屋支配

ここのところ、出版業界では取次会社が書店を小会社化する動きが目立っています。
子会社化しないまでも、株式を取得して強い影響力を持とうとする流れが起きているのは確かです。

最近の例でいえば、日販が文教堂の株式の28.12%取得して筆頭株主になったことが業界にインパクトを与えています。

なぜ取次が書店経営を”支配する”という流れが強まっているのでしょうか?

ここでは日販とトーハンが影響力を持つ書店を比較し、取次と書店、さらには出版業界の変化について考えてみたいと思います。

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日販が文教堂を”手に入れた”意味とは?

日販については、さきほど挙げた文教堂の株式取得が業界に大きなインパクトを与えています。
その理由は大きく分けて2つあります。

  • ・日販が文教堂の筆頭株主になったから
  • ・トーハン帳合の文教堂が日販に帳合変更する可能性が高いから

筆頭株主になって、文教堂への影響力を強くした日販

そもそも筆頭株主とは何のことでしょうか?
筆頭株主とは、その会社の株式を最も多く持つ会社(あるいは人)のことをいいます。

今回、日販は文教堂株の28.12%を取得し、文教堂株を最も多く持つ株主になりました。株を持つということは、それだけ多くの出資をしているわけですから、経営方針などに大きく関与するのは必然とも言えるわけです。

ちなみに、株式の50%超を取得されると会社の経営を支配されることになります。そして、50%以上取得した場合には「子会社」となり連結決算の対象となります。

今回のケースでは日販は50%以上の取得には至っていませんので、文教堂の経営を支配するところまでは至ってません。ただ、筆頭株主としての日販の存在感は文教堂にとって無視できるものではありません。

日販がトーハンの取引先を奪った

日販とトーハンは二大取次と呼ばれ、売上規模も互角の戦いを繰り広げています。
そんな2社は次々と書店の帳合を獲得しているわけですが、文教堂のケースについては日販がトーハンから取引先を奪い取ったかたちとなっています。

文教堂は全国に約200店舗ありますが、ほとんどがトーハン帳合のお店でした。そのうち日販は44店舗と取引があるわけですが、業界内では「文教堂=トーハン帳合」というのが見解としてあったのです。

しかし、今回の株式取得によって日販への帳合変更が行われる可能性は高いと言えるでしょう。

文教堂は314億9300万円(2013年度)を売り上げ、書店売り上げランキングで7位に入るナショナルチェーンですから、出版業界に与えるインパクトは大きいわけです。

日販とトーハンが支配する書店

さて、ここからは具体的に日販とトーハンが支配する書店を見ていきましょう。支配というと聞こえがよくないですが、ここでは便宜的に支配という言葉を使わせていただきます。

さきほども説明しましたが、”支配”と言っても必ずしも子会社化しているとは限りません。ここでは、あくまでも「強い影響力を持つ」という意味でお考えください。

日販が支配する書店一覧

  • ・リブロ
  • ・いまじん白揚
  • ・ブラスメディアコーポレーション
  • ・すばる(すばる書店)
  • ・積文館書店
  • ・MeLTS
  • ・万田商事(オリオン書房)
  • ・あゆみBooks
  • ・東武ブックス
  • ・有隣堂

リブロ、積文館書店、オリオン書房、あゆみBOOKS、東武ブックス、有隣堂は店名として使われているためわかりやすいですが、それ以外はほぼすべてがTSUTAYA事業を展開しています。つまり、店名は「TSUTAYA〇〇店」となっているわけです。

このうち、愛知県の「いまじん白揚」は売り上げが193億7500万円(2013年度)あり、書店売上げランキングでも15位に位置する大きな勢力です。

ちなみに、日販の息がかかっている書店かどうかを見極める手っ取り早い方法として「Honya Club」の有無があります。
Honya Clubは日販が展開しているポイントサービスで、これに加盟している書店はほぼ確実に日販主導の店舗と言えるでしょう。

トーハンが支配する書店一覧

  • ・東京ブッククラブ
  • (オークスブックセンター、金龍堂)
  • ・スーパーブックス(メディアライン)
  • ・明屋書店
  • ・ブックファースト
  • ・文真堂書店

店舗数や売上規模で見て最も大きなインパクトがあるのはブックファーストです。
ブックファーストはそれまで阪急阪神東宝グループの企業でしたが、トーハンが全株式を取得し傘下に収めました。

ブックファーストはそれまで大阪屋(現・大阪屋栗田)がメインの帳合でしたが、トーハンのブックファースト全株式取得によってごっそりと取引先を奪われるかたちになったのでした。

日販に比べるとトーハンによる書店への関与はまだ少ない印象ですが、これから徐々に増えてくる可能性は十分にあり得るでしょう。

なぜ取次会社が書店を支配するのか?

取次会社と書店は「物流」と「小売り」ですから、一見すると業態がまったくちがうようにも思えます。なぜ物流会社が書店を買うのか?と疑問に思う人もいるかもしれません。

取次が扱うメイン商品は本ですから、書店との相性は言うまでもなく良いわけです。ですから商品の特性を考えたとき、取次による書店の支配は必然的な流れとも言えるでしょう。

もう少し踏み込んで考えてみましょう。ここでは取次が書店を支配するメリットを2つ挙げてみたいと思います。

  • ・書店の現場に口出しできる
  • (有り体にいえば、仕入れ厳選や返品抑制)
  • ・新しいビジネスモデルの模索

取次による書店への口出し

出版業界で現場にいる人、特に書店員や出版営業は取次の影響力をひしひしと感じているはず。
なぜかといえば、書店が本を仕入れるときに取次が大きく介入するケースが増えているからです。

具体的には「返品抑制」や「定番商品の入荷強制」などがあります。

取次にとって、書店からの返品率増加はコストでしかありません。せっかく運んだ本が売れずに戻ってきてしまっては良いことがないからです。そのため、書店は取次からまず仕入れを厳選するように指導されます。

取次は詳細な売上データを持っていますから、店舗ごとの客層や立地に合った定番の売れ筋商品を知っています。

「ウチに良いデータがあるよ。このデータどおり本を並べれば問題ないから。書店員さん、仕入れはこっちに任せなさい」

といった具合です。

その通りに本を書店に並べれば、売り上げも取れるし返品も抑制できます。商売上のメリットが大きいわけです。

こうした現場への影響力を持つことができるので、取次会社が書店を傘下に収めるケースが増えているといえるでしょう。

ただし、定番商品によるお店づくりは弊害が大きいのも事実です。

まず書店員のやる気が大きく減退します。なぜなら、自分の仕入れたい本が仕入れられないからです。書店員にとってこんなにつまらないことはありません。

また、出版営業にとっても深刻です。本屋に行って営業をかけても「ウチは日販(トーハン)からしか入れられないんです」と言われてしまえば、受注なんて取れません。

現状、書店員の権限で受発注ができる店舗も多いですが、一方で「仕入れを完全に取次に掌握されている」という本屋も多くなってきています。

本屋の新しいビジネスモデルを探す旅

取次が書店を支配するもう1つの理由は、あたらしいビジネスモデルの模索にあります。
繰り返し取り上げている日販による文教堂の支配がまさにそれです。

新文化には日販が文教堂の株式を取得した理由についてわかりやすく書かれています。

文教堂では出版社だけでなく、ゲームメーカーと共同で作ってきた各種キャラクター商品も人気で、コミックスを凌ぐ売り上げをもつ店舗もでてきている。さらに雑誌を購入した読者に電子雑誌を進呈するサービス「空飛ぶ本棚」も、参加する同業他社が増えて書店のインフラ的存在になっている。こうしたことを背景にして、「everything around BOOKS」をキーワードに本の価値を高め、読者との接点を増やそうと複合展開を進めている日販は、新業態の開発に力のある文教堂と業務提携をすることで、売り上げ減少に悩む書店に向けて新たな店舗モデルの構築を加速する考えである。(「新文化 9/22」)

少し長いですが、簡単にいえば「本の売り上げが減っているから、本以外で売り上げを立てている文教堂が欲しかった」というのが日販の事情です。

本の売り上げが減っているいま、書店にとっては新しいビジネスモデル、収益モデルが絶対に必要です。そう考えると、日販が文教堂とノウハウを蓄積することで、日販店の本屋にも新しいビジネスモデルを導入することが可能になるかもしれません。

取次会社が書店を吸収するというニュースを見ると、「本屋の危機」を感じる人も多いでしょう。わたしもその一人です。

しかし見方を変えれば、資金力がある取次が書店と協力して業務の効率化やビジネスモデルの構築を図るのは歓迎すべきことなのかもしれません。

 


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