「ゴーストライター」という名前を耳にして、おそらく大半の人は良い印象を抱かないと思います。
それもそのはず、やってることは本人の代わりに本やシナリオを書くことだからです。
とはいえ、世間的にはゴーストライターの存在は一種の”迷信”のように扱われていたります。
ゴーストライターってよく聞くけど本当にいるの?という疑問は多くの人の口の端にのぼるくらいです。
今回は出版業界のゴーストライター事情に的を絞って、その実情について迫りたいと思います。
ゴーストライターは衝撃的な割合で本づくりに関わっている
結論から言いますと、出版業界にゴーストライターは存在します。
というより、ジャンルにもよりますが作品のほとんどはゴーストの存在によって作られていると言ってもいいくらです。
さて、世の中に出回っている本の何割くらいがゴーストライターによって書かれているのでしょうか?
ズバリ、タレント本やスポーツ選手、有名な経営者のビジネス書ではなんと9割(!)もの本がゴーストライターによって書かれていると言われています。ゴーストライターによって書かれた作品は世の中に溢れているということです。
ゴーストライターが本の執筆に関わるまでの流れ
ゴーストライターに批判的な人が多いのは確かですが、実はこのゴーストライターという職業は著者・ゴーストライター・出版社のそれぞれにとってメリットがあるから成り立っているのです。
たとえば、有名な経営者が本を出すことになり、ゴーストライターが代わりに本を書くとします。
ちなみに【有名人 feat.ゴーストライター】という組み合わせは出版業界ではよく見られます。
まずゴーストライターが著者(ここでいえば経営者)にインタビューを行うことからはじまります。
だいたい2〜3時間ほどのインタビューを少なくとも3〜4回行うのが一般的です。
そして、著者本人(有名経営者)のほかにその関係者(会社の幹部など)にもインタビューをして、情報を横断的にひろっていきます。
本人からは得られないエピソードを拾う、重要な取材です。
こうして著者や関係者から得た情報を元にして、ゴーストライターが原稿を書き上げます。
原稿が完成すると、著者に内容を確認してもらい、編集者に校正をしてもらった上で最終的に本として仕上がることになります。
本が完成するまでの流れはザッとこんな感じですが、実際にはレイアウトやDTPなどの作業が入ります。
ゴーストライターと聞くと「あることないこと書く」という印象を持つ人もいるのですが、このようなケースのゴーストはけっこう忠実に書きます。
なぜなら、著者本人の体験談や意見をもとにしているので、ゴーストライターが勝手にテキトーな内容を書くことはできないからです。
このゴーストライターという仕組みはなぜ出版業界では当たり前になっているのでしょうか。
出版社や著者がゴーストライターに依頼するメリットとは?
本の著者(タレントや経営者)や出版社がゴーストライターに依頼することのメリットは以下の2つです。
- ・自分に文章の才能がなくても良い本が書ける
- ・忙しくて時間のない経営者やタレントでも本が書ける
文才がなくてもゴーストに任せれば安心
以前に比べると、アイドルも経営者も、ブログやTwitterで文章を書く機会が多くなりました。
そのため、多少なりとも文章能力を磨く機会はそれなりに増えているかもしえません。
とはいえ、商業的に出版する本ともなれば話は別です。
文章の構成や、細かいところでいえば段落や句読点などを1冊の本すべてにわたって的確なものに仕上げることはなかなかむずかしいのが実情といえます。
小説なども一部でゴーストライターが書くことがありますが、正直それはもはや誰にも知る術はありません。
多忙な有名人より、ヒマなゴースト
ヒマなゴースト、と書くと語弊があるかもしれませんが、本を出すような有名人などは多忙で時間がありません。
タレントやスポーツ選手は、忙しいことがほとんど。特にスポーツ選手は海外遠征で日本にいない場合だってあります。
忙しくて時間のとれない人が時間をかけて自分で文章を書くのはむずかしい場合がほとんど。
その点、ゴーストに発注すればインタビューを数時間、複数回おこなうだけで本ができるのは大きなメリットです。
また出版社特有の”締め切り”のことを考えると、編集者としてはゴーストライターに頼んだほうがスケジュールを立てやすくなるでしょう。
ゴーストライターが仕事を受けるメリットはいっぱいある
ゴーストライターが仕事を受けるメリットは、なかなか大きいといえます。
その内容は、おもに以下の3つに分けることが可能です。
- 1.駆け出しのライターにとっては大きな収入源になる
- 2.手がけた本を通して、人脈が広がる
- 3.普段は知り得ない情報や知識を得ることができる
不安定なフリーライターにとって、大きな収入源になる
ゴーストライターを引き受けるのは、駆け出しのジャーナリストやフリーのライターがほとんど。
ジャーナリストやライターは不安定な職業なので、ゴーストとして本を書くことで収入を確保できるのは大きなメリットとなります。
ゴーストライターの仕事で得られるお金は「原稿料払い」と「印税払い」の2通りに分けられます。
ゴーストライターは印税をいくらもらえるのか?
「原稿料払い」とは、本の売れ行きに関係なく1冊の本を完成させることによって10万円や50万円などの金額が支払われるものです。
この金額は原稿のボリュームやライターの知名度などによって変動します。
「印税払い」は、本の売れ行きに応じて、収入が上下します。
印税払いの場合、著者・ゴーストライター・出版社の3者の契約によって印税率は異なります。
たとえば印税率が10%の場合、著者とゴーストライターで5%ずつ分け合ったりします。
また、初版分だけはゴーストライターが7-8%、著者が2-3%の印税率という契約もあります。
「原稿料払い」の場合は本が売れなくても収入が確保できますが、仮に自分の書いた本がベストセラーになっても収入はそれ以上増えません。
ゴーストで得られる人脈はライター人生の質を左右する
本を書くにあたって、ゴーストライターは様々な人物にインタビューを行います。
有名経営者の場合、著者である経営者へのインタビューはもちろんのこと、その周りの人物にも接触をし、取材を行うことになります。
著者が影響力のある人物であれば、それだけその業界の要人に取材を行える確率は高くなるでしょう。
また、単なる取材とは異なり、本の内容に必要なヒアリングとなるので、普段は聞けない本音を引き出せる可能性がグッと高くなります。
アポ無しの取材とはちがって、インタビューを受ける人や会社・団体も好意的なことがほとんどなので、心置きなく話を聞くことができます。
あらゆる業界の人物との人脈を広げることは、ライター自身の仕事の幅を広げ、仕事の質を高めることになるのです。
ただのライターには触れられない、貴重な情報や本音を引き出せる
2の内容と多少重複しますが、たとえば経営者のゴーストライターを引き受けるとなったら、その会社の内部に堂々と入り込むことができます。
外からのアプローチだけでは得ることのできない、貴重な情報を得られる可能性が高くなります。
こうして得られた情報はライターの知識・経験の蓄積となって、次の仕事に役立つことになるのです。
1つゴーストライターの経験をしておくと、仕事に対する姿勢やモノの見方が変わるので、仕事の質も上がりやすくなります。
出版社がゴーストライターを雇うメリットは?
ゴーストライターを利用することによる出版社のメリットはただ1つ。「納期を守れる」ということです。
忙しいタレントや経営者が、納期どおりに原稿を持ってきてくれる保証はどこにもありません。
原稿の完成を待っていては、刊行スケジュールが大幅に狂ってしまいます。
旬な内容が売りの本であればなおさら。納期の遅れは大きなマイナスとなります。
ですから、悠長に原稿を待っているよりは、ゴーストライターにインタビューや取材をしてもらって、早く原稿を完成してもらった方が圧倒的に効率的です。
ゴーストライターを使ったからといって印税の支払いが余計にかかるわけではないので、予算的な問題もありません。
ゴーストライターという存在の賛否
ゴーストライターは出版業界にとっての「効率」そのものです。
しかし、
「ゴーストライターが本を書くなんて詐欺だ!」
という反対派がいれば、
「面白い本が読めれば、誰が書いててもいいよね」
という賛成派もいます。
賛成派の意見は「文章をきちんと書ける人が書いたほうが、知りたいことを的確に知ることができるよね」というもの。
反対派の意見はいうまでもなく「騙しやがったな!」です。
ゴーストライターを許容し、「出版業界はそういうもの」と割り切るのか。
あるいは、「こんな商売が成り立っていいのか!」と憤慨するのか。
終わることなきゴーストライター論争。あなたはどちらを支持しますか?