書店に並んでいる本に挟まっているあの紙。正式な名前を「スリップ」といいます。
書店員は「短冊」と呼ぶこともありますが、立ち読みをする時には少しだけ邪魔だったりしますよね。
そんな、立ち読み客から少しだけイヤがられるスリップにはいったいどんな意味と役割があるのでしょうか。
まずはスリップに書かれている情報をチェックしてみましょう。
スリップには何が書かれているの?
- 1.本のジャンル
- 2.番線印を押す箇所
- 3.本のタイトル&サブタイトル
- 4.著者名
- 5.発行元(出版社)名
- 6.価格と税率
- 7.ISBNコード
- 8.Cコード
- 9.注文冊数の記入欄
これらの情報は出版社によって異なる場合がありますが、基本的にはどこも同じ内容になっています。
スリップに使われる紙の色は、これまた出版社によって異なっていて、白をはじめピンクやグリーン、オレンジなど多彩な色があります。
色によるちがいは基本的にありません(一部、地方・小出版流通センターのスリップなどは色を見ると判別しやすい)。
次に、スリップの果たす役割を4つに分けて解説していきましょう。
売れた本のデータを集計するのに使われる
本がレジを通るときにスリップは書店員によって外されます。
これを集めて保管しておくことで、どんな本が何冊売れたのかを集計することができます。
かなりアナログなやり方ですが、これによってデータを取っているのです。
ただし、あとで説明するように近年ではスリップによる売上管理をする本屋はほとんどありません。
特に全国展開しているような書店チェーンではまずスリップによる管理はしていません。
小さな本屋でスリップ管理をしているのは、私が知るかぎり杉並区阿佐ヶ谷に本店がある「書原(しょげん)」くらいでしょうか。
売れた本を補充する時の注文票として使う
集められたスリップは売り上げデータの集計だけでなく、本を補充・注文するときにも使われます。
スリップに番線印(書店ごとに割り振られたコードが刻印されている)を押して、FAXで出版社に送信する方法が1つ。
あとは出版社が書店営業に来た際に直接渡すこともあります。
わたしは新宿の大型書店で働いていたのですが、昭文社という地図関連の書籍を刊行する出版社は営業担当の人が毎週お店までスリップを取りに来てましたよ。
売り上げ報奨金の手続きをするため
報奨金とは、特定の本を売ると出版社から書店側にキャッシュバックされる仕組みのことです。
出版社は書店と報奨金契約をすることによって、お店の店頭で長く良い場所で陳列してもらえるメリットがあります。
報奨金の条件は様々。「返品率が一定の◯◯%以下で、期間中◯◯冊以上の販売実績」など、出版社によって異なります。
肝心のスリップですが、売れた分を保管しておき、まとめて出版社に送ることで報奨金を得ることができます。
これも近年ではPOSレジによって行われることはほとんどなくなりました。
万引きされた本かどうかを見極める
本というのは特殊な商品で、その本がレジを通ったかどうかを判別するのがわかりにくいものです。
カバーがされていればわかりやすいのですが、カバーもかかっておらずレジ袋にも入ってない状態で本を持ち歩いている人もたくさんいます。
本屋は万引き犯の温床とも言われていますが、たしかに万引き被害が大きい場所です。
そんな万引き犯の特定をするときに、スリップが活用されることがあります。
スリップは、本がレジを通るときに書店員によって抜かれるのが普通です。
しかし、もしスリップが抜かれていない状態の本がお客さんのカバンから見つかったとしたら…。これはかなり怪しくなってきます。
もちろん書店員がレジでスリップを抜き忘れることもあるので一概には言えませんが、1つの判断材料として使うこともできるわけですね。
カバンの中からスリップ付きの「裸の本」が見つかったらクロの可能性大。
本を買ったら、お店を出るまではレシートを挟んでおくのが安全です。
スリップはもはや用なし?POSレジが主流でスリップ不要論が浮上
ここまでスリップの果たす役割を4つに分けて紹介してきました。
紹介したはいいのですが、さきほども説明したとおり現在の書店ではほとんどが使わずに捨てられています。
というのも、本の売り上げはPOSデータで管理することが多くなり、アナログな売り上げ管理はしなくなったからです。
しかし、昔ながらの書店ではスリップの上に入荷した日付を記入して、商品管理を行っている場合もあります。
従来どおりスリップを集計して本の補充に使っている書店も少ないながら存在するのです。
たとえば、以前あゆみブックス小石川店に勤務していた久禮亮太さん(現在は久禮書店という屋号で活動中)は、スリップを見てお客さんが買った本の分析をするようです。お客さんがどんな棚を見て、どんな動線を通って店内を回遊したのか。スリップから読み取れることはいっぱいあるとのこと。
以前ほどは活躍の場を失ってしまったスリップですが、それでも書店業務には欠かすことのできないものです。
まだまだこれからも出版業界でスリップは活躍してくれることを祈るばかり。
やっぱり昔ながらのスリップ管理って、なんかいいんですよね。