突然ですが、1つ提案があります。
休みの日にこんな目的で本屋を物色してみませんか?
その目的とは「他の出版社をマネして作られた本を探す」というもの。
何気なく、フラッと眺めているだけではなかなか気づきませんが、いつの時代もパクりは正義のようです。
本屋に並ぶ本をじっくり見比べてみれば「これパクりじゃん!」という作品が驚くほどたくさん見つかります。
このあたりでも私の育ちの悪さを露呈することになりますが、「自分は出版業界のトレンドを探っているんだ!」という大義名分をかざせば、なんてことありません。きっと、そこにはベストセラーのヒントが隠されているのですから。
あのアスコムですら他の出版社をパクるという事実
出版業界ではたらいている身としては、他社の新刊には敏感になります。
・「こんな切り口で新刊を出すのか…参考になるな」
・「この新刊のタイトルいいなあ。ウチの本づくりにも生かそう」
なんていう感想を抱くこともありますが、
・「ちょ、この新刊って◯◯社のパクりじゃん!」
という感嘆にも似た思いを抱くことも多々あります。
2014年8月にアスコムが発売した新刊『目を温めれば視力はよくなる!』という本がその一例です。
これがいま、じつによく売れています。
トーハンの実用書週間ランキング(2014/11/16〜11/22)でも9位に入るほどの勢いです。
さすがアスコム!…と言いたいところですが、じつはこの新刊に「パクり疑惑」が浮上しています。
その被害者となっているのが自由国民社が発行している『目は1分でよくなる!』という本です。
この本は2013年12月に発売され、20万部突破のベストセラーとなりました。
タイトルもさることながら、どうでしょう。このカバーデザインの酷似っぷり。
これを見て「えーそんな本あったのー?知らなかったーん」なんてアスコムが弁解しようものなら、その堂々たる振る舞いに拍手喝采です。
もう一度見比べてみましょう。まずはアスコムの本。
そして、自由国民社の本。
少し寄ってみましょう。
すみません、ちょっと寄り過ぎました。
絵のニュアンスはともかく、カバーのつくりは酷似しています。
ニッコリ微笑む美女は同一人物なのでしょうか。彼女はかなりの売れっ子みたいです。
パクることで出版業界のトレンドが形成され、ベストセラーが生まれる
ここまで散々「パクる」という、さもすると悪口のように聞こえる言葉をたくさん使ってきました。
でも、この記事で伝えたいことは「パクるなんて卑怯だ!」ということではありません。
むしろ「素晴らしき模倣」として讃えたい気持ちで一杯です。
なぜ讃えたいのか?それはアスコムの模倣の上手さと、販売戦略にあります。
まず、どんな業界でも言えることですが、売れる商品があればそれをマネするのは当然の戦略です。
ただ、マネをすることと、それが売れることはイコールではありません。
売れている商品をいかに模倣するか。ただマネするだけではなく、いかにしてそこに別の付加価値を乗せていくか。
このアスコムの新刊は特にカバーを模倣しています。
そこに付加価値としてのコンテンツを見事にマッチさせることで、十分に売れる本に仕上げるわけです。
これは効率的な戦略です。
でもしっかりとしたノウハウがないと、ただの二番煎じになって終わります。
アスコムの編集者と営業の力、そこに広告戦略がバシッとハマることで、この模倣は成り立つのです。
アスコムでもパクるんだ!という親近感にも似た思い
もしかしたらアスコムにはこうした「模倣本」が過去にもたくさんあるのかもしれません。
わたしが知らないだけで、模倣戦略で売り上げを伸ばしている本がもっとあるのかもしれない。
でも、わたしが知っているアスコムのイメージは「孤高のベストセラーメーカー」でした。
2014年の年間ベストセラー1位に輝いた「長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい」、2013年の年間ベストセラー1位の「医者に殺されない47の心得」などは、内容はもちろん、カバーデザインや判型にいたるまで健康実用書の一大トレンドを生み出しました。
そんなアスコムが模倣をするわけですから、この出版業界で「模倣」という選択がいかに重要視されているかが読み取れます。
新しい切り口の新刊、いわゆるブルーオーシャンを切り開くのはリスクが伴います。
それよりも、すでに売れている本の模倣をすることで稼ぎを得る。
ただでさえ本が売れない時代ですから、当然のやり方かもしれません。
今後も模倣による本づくりは続いていくことでしょう。
模倣のノウハウをきちんと蓄積させること。
それが今後、出版社が生き残るための必須条件になっていきそうです。