みなさんの仕事にはどんな知識や技術が要求されますか?
どんな仕事にも「ある一定のラインを超えるとドヤ顔をしたくなる瞬間」というものがあります。
営業の仕事であれば巧みなトークで大きな受注を取ったときでしょうか。
プログラマーであれば大規模なシステム開発を成功させたときかもしれません。
はたまた動物園の飼育係なら、超満員の観衆前でショーを成功させたときにドヤ顔が炸裂するでしょう。
では、書店員が仕事をしているなかで最もドヤ顔をしたくなるのはいつでしょうか?
良い接客ができたとき?
閉店後のレジ点検が一発で合っていたとき?
自分の仕掛けたフェアで売り上げが伸びたとき?
悪くありませんが、どれもドヤ顔炸裂までは届きません。
書店員のドヤ顔が炸裂する瞬間、それは「お客さんの在庫の問い合わせにスグ対応できたとき」です。
店頭在庫が棚のドコにあるかを把握している全能感
書店員とした働いていると、たくさんのお客さんがやってきます。
フラット立ち寄っただけの人、待ち合わせの人、目的買いで特定の本を買いに来た人などさまざまです。
基本的にお客さんは自分で本を探すわけですが、書店員に在庫の問い合わせをする人も少なくありません。
お客さんは、たとえばこんな感じで書店員に聞いてきます。
- 「昨日の金スマで紹介されていた本はありますか?」
お客さんから質問を受けた書店員は頭をフル回転させます。
まずは自分がその本の存在を知っていないといけません。それが大前提。
自分の店に在庫はあるのか?これを調べるのが最初のステップです。
そして、次に店内のドコの棚に置いてあるのか?調べます。
棚がわかったら、何列何段目の何番目に本が差してあるのか?
ここまで特定できて、はじめてお客さんに本を提供できるわけです。
さきほど例にあげた「金スマで紹介された」といったケースは、かなり難易度は低め。
なぜなら、影響力の大きいメディアで紹介された本は大展開されるのが普通だからです。
書店員からすれば、わずかな情報だけを頼りにして解決できたほうがドヤ顔は強くなります。
言いかえれば、情報が少ない問い合わせに対応できた瞬間ほど「ドヤ顔レベル」はアップするのです。
では、どんな問い合わせだとドヤ顔レベルは高くなるのでしょうか?
ここでは実際にわたしが受けた在庫の問い合わせ例をもとに、レベル1〜レベル3まで3段階に分けて紹介したいと思います。
レベル1「今朝の朝刊に載っていた『◯◯◯(書籍名)』という本はありますか?」
まず、もっとも難易度が低かったのは「今朝の朝刊」の切り抜きを持ってくるケースです。
なぜ難易度が低いのでしょうか?
その理由は以下の3つです。
- ・書籍名、出版社名、ISBNがハッキリわかる
- ・書影(本の表紙)が写真でわかる
- ・新聞広告に出る本は在庫がある確率が高い
タイトルもわかれば、書影もわかる。
そして、新聞広告を打つ書籍や雑誌は在庫を切らしている可能性は低いので、自分の店にある確率が高い。
こうした条件が揃っていると在庫を調べやすいので難易度は低くなります。
ただし、問い合わせに対応して「コチラの本でよろしいですか?」とお客さんに聞くときの顔は、ドヤ顔です。そりゃドヤ顔はします。
でも、この難易度ではドヤ顔レベルは1にしか届きません。
レベル2「I’m looking for this book.But…」
外国人のお客様のお問い合わせは難易度が高めです。
さがしている本が特定できればいいのですが、それもあいまいだと非常に労力がかかります。
わたしが実際に問い合わせを受けたのは、かなり訛のあるイギリス人のお客さんでした。
それはもう、中学英語をフル活用して必死に聞き取ります。
聞き取りは案外できたのですが、喋るのがむずかしいじゃないですか、英語って。
在庫がすぐにあれば喋らないで済むはずだったのですが、肝心の在庫がない!
さあ、この状況をどう伝えるか…。
わたしは店頭在庫をさがすフリをしてネットで翻訳サイトを開きます。
そして…
「在庫がありません 英語」
「出版社に在庫を問い合わせる 英語」
「お取り寄せ 英語」
必要となるであろう英会話フレーズを片っ端から調べました。
つたない英語で相手に状況を伝えることができました。
遠目で見れば外国人客と対等に英語でやりとりしている風に見えたはずなので、同僚の評価はアップしたでしょう。
当然、ドヤ顔です。本当はめっちゃ冷汗かいてたけど。
レベル3「ラジオで誰かが言ってた本なんだけど…」
もっとも難易度が高いのは「書籍名がハッキリしない」という状況。
出版社名や書籍名の一部だけでもわかればいいのですが、それもわからないとピンチです。
また、情報が有名なテレビ番組や雑誌であれば比較的調べやすいんですよね。
でも、わたしが受けた問い合わせはラジオでした。
しかもラジオの番組名はわからないし、誰が言ってたのかもわからない、書籍名もわからない。
わかるのは「なんか頭に良いらしい」ということ。
いや、頭に良いって言ったら本はほとんどいいよ。などと思いながらもニコやかな対応を心がけます。
情報が「頭に良いらしい」だけだったので、イチかバチか脳トレの棚にお客さんを連れて行って片っ端から確認しました。
- 「これですか?」
- 「ちがう」
- 「これですか?」
- 「ちがう」
- 「これですか?」
- 「ちがう」
- 「これですか?」
- 「これだ!」
本当にその本で合っていたのかはわかりませんが、お客さんが喜んで買って行ってくれたので良かったです。
虱潰しにさがしただけでしたが、無から有を作り出したような気持ちになれたのでドヤ顔でした。
もっとも気持ちいいのはピンポイントで本の場所がわかったとき
お客さんから問い合わせを受けて、書店員が応えるときに最も気持ちいいのは「ピンポイントで本の場所がわかるとき」です。
もちろん面陳や平積みのほんでもドヤ顔したくなるのですが、もっとドヤ顔したくなるのは「1冊、しかも差しの本」がわかったとき。
さきほども説明しましたが、何列目何段目の端から何冊目というレベルで覚えている本がわかった瞬間はたまりません。
棚の整理をしていてたまたま覚えていることがほとんどですが、このときばかりは全能感を禁じえません。
店頭在庫が棚のドコにあるかを把握している全能感
ドヤ顔というのは「どうだ、自分はこんなこともできるんだぞ」という自己顕示欲を体現しています。
あまり良い意味では使われませんが、ドヤ顔をする人の神経にはきっとドーパミンが溢れているはず。
だから、まわりには不快かもしれませんが、ドヤ顔をしている本人にとってはかなりの快楽なのです。
どうかぜひ、ドヤ顔をしている書店員を見かけても優しく見守ってあげてください。
それだけ、書店員という仕事を愛しているということなのですから。
(記事を書いていて、もっともドヤ顔をしたくなるのは上手く文章を締められたときです。ドヤ)