こんにちは、アユム [ @kot_book ] です。
キングダム第3巻は、大王・嬴政が山の王・楊端和に協力を求めに行くシーンが印象的ですが、最大の見所はなんといっても王都・咸陽に攻め込む場面です。
ただ、個人的には「壁のこのシーンが後々の伏線になってたのかなぁ」と思わされる場面などもあり、すごく興味深く読んでいました。
犬戎を語る壁。犬戎王・ロゾを倒す伏線なのか
信、河了貂、壁の三人は大王・嬴政を助けに行くも、山の民に捕まってしまいます。
山の民はこれまで、文明の遅れた民族としか認知されていませんでした。しかし天然の要塞を構築するなどの知恵と技術を持つ彼らを、侮ることはできないと壁は確信します。
その中で壁は、かつて周王朝を滅ぼした犬戎について語ります。

『キングダム 3巻』原泰久、集英社
このシーン、最初に読んだときは「ふーん、そんな歴史があったんだね」としか思いませんでした。
しかし、全巻読んだあとで、あらためて読み返していると「これは、壁が犬戎を倒す伏線だったのか…」と思わされるシーンでもあるわけです。
ここは大いなるネタバレなのでご注意いただきたいのですが、キングダム53巻では壁が犬戎王・ロゾを倒すシーンがあるんです。

『キングダム 53巻』原泰久、集英社
フィゴ王・ダントが囮となって、ロゾが背を向けた瞬間に壁が一刀両断します。ここは何度見ても震えるくらい良いシーンなんですが、じつはこの犬戎王がまさにさきほど壁が語っていた犬戎のことなんですよね。
この3巻が伏線で、53巻にしてようやく伏線回収した…というのはさすがにない気もします(もし原先生がそこまで狙っていたのなら驚嘆)。
とはいえ、物語の序盤で犬戎について語っていた壁が、犬戎王・ロゾを倒してしまうというところにつながりがあると思いたい。
ここって、山の王・楊端和が絶体絶命というシーンの最中なんですよね。そんな状況で、壁が犬戎王・ロゾを倒すというのがポイント。楊端和に惚れている壁が、ようやく男をみせたというわけです。
「これまでずっとパッとしなかった壁が、ついにやり遂げたんだ」というのが、このシーンで見事に描かれています。
ちなみに、壁が楊端和に惚れている描写は、3巻からずっと続いていますからね。それを周りの人におちょくられるシーンも最高に好きです(笑)
肆氏が大王側に寝返る伏線が描かれている
これまた伏線の話です。伏線ばかりですみません。
成蟜側の上級文官に肆氏(しし)という人物がいます。肆氏は竭(けつ)丞相の部下として奔走するわけですが、兵を集められない肆氏に対して竭丞相が暴力を振るうシーンがあります。

『キングダム 3巻』原泰久、集英社
これは上司と部下という圧倒的な力関係を描くとともに、竭丞相の理不尽さや横暴さを描写しているシーンでもあります。
これを見ると、読者としては少なからず肆氏に感情移入しちゃうわけです。「竭丞相って最悪な奴だな…肆氏がかわいそうに」という感じです。
ここで描かれているのはそれだけではありません。肆氏はのちのち、大王・嬴政の仲間になるわけですが、仲間になっても不自然ではない肆氏の心の変化をちゃんとここで描いているわけです。
つまり、竭丞相に対して不満があり、竭丞相ならびに成蟜に仕えるほどの心理状態にはなりえないことを暗に示しているんですね。まあ、これは後から読み返して気づくシーンではありますが。
このシーンは、成蟜および竭丞相側に兵士が足りておらず、山の民を味方に迎え入れるには十分な動機があることを表す目的があるんだとは思いますが、何度も読み返しているとこういう”裏読み”もできるのですごく楽しいです。
成蟜の悪人ヅラと、竭丞相のクズ人間っぷり
読み手が物語に1番感情移入しやすいのって勧善懲悪だと思うんですよね。いわゆる、悪を倒す正義のヒーロー的な。
悪者と正義のヒーローの対立構造がしっかり提示されていると、僕たち読者もすんなりストーリーに入り込むことができます。
その点で見ると、この3巻は非常にわかりやすく描かれていると思います。
典型的なのが、成蟜の悪人ヅラ。そして、竭丞相のクズ人間っぷりです。
まず、成蟜の顔の描かれ方がいかにも悪人なので、非常にわかりやすい。

『キングダム 3巻』原泰久、集英社

『キングダム 3巻』原泰久、集英社
そして、竭丞相の「私腹肥やしてます感」は見た目からも明らかですし、発言や行動がクズすぎます。肆氏を殴ったり、踏みつけたり、しまいには馬車から部下を投げ落としたり(これは本当にクズ)。

『キングダム 3巻』原泰久、集英社
このように、「こいつは徹底的に叩かれるべきだ、裁かれるべきだ」と読者が感情移入しやすい描き方をしてくれているので、こちらの感情も高ぶるし、すんなりストーリーに入り込めるんだと思います。
キングダムは、一見するとむずかしく思われる中国の歴史を扱っています。そんなテーマにも関わらずここまで多くの読者を惹きつけて止まないのは、こうしたわかりやすい対立構造の提示にあるんじゃないかと思います。
歴史がよくわからなかったとしても、すんなり感情移入ができるから、単純に読んでても面白い、というわけです。