なぜ紀伊國屋書店で本を買うと特別感があるのか?【本屋の名前が醸し出すブランド価値を考える】

紀伊國屋書店で本を買うのってなんか良いよね【本屋名が醸し出すブランド価値を考える】 書店業界ニュース
紀伊國屋書店公式サイトより

「本はどこで買っても一緒なんだから、ネットでいいよね」とか「本という商品は差別化がむずかしいから大変だね」なんていうふうによく言われますが、それは間違いありません。

本に興味がない人は本屋名を意識することはないでしょうし、本好きの人でも本屋に興味がない人はわざわざ本屋名を意識して本を買うことはないかもしれません。

でも、わたしのような一部の人間にとって「どこの本屋で買うか」というのはとても重要な意味を持ちます。

ひとことでいえば「購買体験」というやつですね。

同じ本でもどこの本屋で買うかによって満足度が大きく変わるので、わたしは本を買うときには本屋名をかなり強く意識しています。

それで、これまでの本の購買体験を振り返ってみて「どこの本屋で買ったときに満足度が高いか?」を考えてみました。

過去の購買体験を踏まえて「ああ、ここの本屋で買うのってなんか良いよな」と感じる本屋にはブランド価値があるのではないか。そんな仮説を立ててみました。

ということで、独断ではありますが、私が本を買うときに喜びを感じる紀伊國屋書店のブランド力について検証してみたいと思います。

”紀伊國屋書店”がブランド力を持つ理由

紀伊國屋書店ほどブランド力のある本屋は他にないと思っています。もちろん異論はあると思いますが、多くの人が紀伊國屋書店に対しては特別な感情を持っているはずです。

言葉で説明するのはすごくむずかしいですが、わたしなりに「なぜ紀伊國屋書店にはブランド力があるのか?」と考えてみました。

  • ・店舗数は少ないのに売上高がすごい
  • ・幼少期に、はじめて本を買ったのが紀伊國屋書店だった
  • ・”紀伊國屋書店”というむずかしめの字面
  • ・どの店舗もわりと規模が大きくて、店内の内装が上品
  • ・本を買った満足感がループしている

店舗数は少ないのに売上高がすごい

紀伊國屋書店って意外と店舗数が少なくて、国内には71店舗しかありません(2019年2月時点)。そして、売上高は1,031億円(2018年8月期)です。

比較するとわかりますが、たとえば未来屋書店は全国に340店舗(2015年2月期)あります。そして、売上高は536億円(2016年2月期決算)です。

1店舗ごとの規模が違うので店舗数だけでは単純に比較できませんが、店舗数が少ないのにこれだけ売上を立てている紀伊國屋書店って単純にすごいなーと思っていて、この感情が紀伊國屋書店への好印象につながっていると自分では認識しています。

店舗数が少ないのに売上高が高いということは、それだけお客さんに支持されている本屋ということだし、それはつまりお客さんが欲しいと思う本をちゃんと並べているということなんですよね。

紀伊國屋書店に行くとなんだか本を買わずにはいられない感覚になるのですが、これはきっと購買スイッチを押さんとする本の陳列やラインナップが要因なんだろうと思います。

幼少期に、はじめて本を買ったのが紀伊國屋書店だった

ごく個人的な体験ですが、紀伊國屋書店は昔から馴染みがあって、幼少期の記憶が消えずに潜在意識にずっと残っている気がしてます。

こればかりは人によってちがうので、共通したブランド力の醸成の説明にはなりません。でも、そのへんの本屋で買っていたら、きっとここまで記憶に残ってないのではないかと思います。

幼いながらも、本屋にある本の数の多さや、なんとなく厳かな雰囲気に圧倒されたのでしょう。

この幼少期の体験が、大人になったいまでも無意識に紀伊國屋書店への敬愛につながっているのだと思います。

若干意味合いがちがうとは思いますが、「三つ子の魂百まで」みたいなことなのかもしれません。

”紀伊國屋書店”というむずかしめの字面

ブランドを語るうえで、ブランド名というのはとても重要な意味を持ちます。

ブランドというとLOUIS VUITTON、GUCCI、FENDI、Ferragamoなんかを思い浮かべる人も多いと思いますが、どうですかこの字面。ちょっとばかみたいな言い方ですが、やっぱりかっこよくないですか?(全部海外ブランドですが…)

もちろん、Appleみたいにブランド名だけでなく商品デザインとか体験でブランド価値を高めている企業もあるんですが、やっぱりブランド名そのものって大切だと思うんですよね。

さて、それを踏まえたうえで紀伊國屋書店という字面を見てみましょう。まず目につくのは”國”でしょうか。”國”はずるいですね。こんな旧字体を入れられちゃうと、無条件で降伏です。

字面が醸し出す「なんとなくアカデミックな雰囲気」というのも、本屋のブランド価値を高めるという意味では重要です。それを紀伊國屋書店という名前が体現しているわけですね。

ちなみに、紀伊 “國” 屋書店については以下のような記事も書きました。

紀伊國屋書店を”紀伊国屋書店”と書かないで欲しい
紀伊國屋書店を”紀伊国屋書店”と書いてしまう、そこのあなたに物申します。

どの店舗もわりと規模が大きい

すべての店舗に行ったわけではありませんが、紀伊國屋書店はどこも1店舗あたりの面積が大きめです。これはなにげに本屋のブランド力を高めていると思います。

わかりやすくいえば、本の購買体験を安売りしてないんですよね。

実際の本屋の名前を出すのはやめておきますが、駅ナカや街のスーパーに出店している本屋はたくさんあります。

こうした本屋もわたしは大好きですが、本を買うという購買体験を考えたときに、あまり満足度が高いとはいえません。

なぜなら「店舗が小さくて、お客さんとすれ違うのもやっと」みたいな本屋だと、本をゆっくり選べないからです。

駅ナカなどにある小規模店舗はどちらかというと「いますぐサラッと読む本をさがすための本屋」みたいな使われ方をするはずです。じっくり本を選ぶのには適しません。

さて、前フリが済んだところで、紀伊國屋書店をあらためて考えてみましょう。

駅ナカなどの人通りが多い場所に、小規模で出店している紀伊國屋書店を私は知りません(あったらごめんなさい)。どこも店舗サイズが大きく、品揃えが豊富です。店内の通路も広いし、ゆっくりと本を選びます。

紀伊國屋書店って「よし、本を買いに行くぞ!」と意気込んで行くことが多くて、だから本を買うときもじっくり時間をかけるし、それが満足度につながるから、本を買ったあとも良い気分。結果的に紀伊國屋書店での良い体験が体に刷り込まれて、ブランド価値を上げるているんだと思います。

良い本を買えれば、当然次も同じ本屋で本を買おうと思いますから、良い購買体験は無限ループするわけです。

「この本屋で手に取ると、本が良く見える」と思わせて欲しい

本屋めぐりをする日は、1日にいろいろな本屋をまわることになります。

すると、当然ながら同じ本のタイトルを何回も目にすることになるわけですが、不思議なことに「同じ本なのに、なぜかこの本屋で手に取ると本が輝いて見える」という経験をすることがたびたびあります。

たとえば『漫画 君たちはどう生きるか』が複数の本屋で売られていて、あるお店ではただのベストセラーとしか目に映らないのに、別のお店では「なんだかいまの自分が読むべき本に思える」という具合です。それはきっと店内の内装および雰囲気、BGM、陳列方法、フェアなどが関係しているのでしょう。

これってすごいことで、本自体の差別化はできないけど、お店づくりで本の差別化はできることを意味してるんですよね。

本を輝かせる方法はいくつかありますが、結局のところ本屋の内装や雰囲気は大きな要因だと思います(単純でごめんなさい)。

やっぱり蛍光灯が切れているような汚らしい本屋で買う1冊よりも、木のおしゃれな本棚が並んだコーヒーの香りがする本屋で買う1冊のほうが絶対良いじゃないですか(神楽坂の「かもめブックス」が最高です)。

なにが言いたいかというと、本屋には「特別な1冊感を演出する見せ方に挑戦してほしい」ということなんです。

同じ本なのに、店内の雰囲気や見せ方で売れ行きが変わるんだから、はっきりいってやらないほうが損です(現実問題としてチェーン店とか予算がないお店だと限界があるとは思いますが…)。

紀伊國屋書店から少し脱線してしまいましたが、他の本屋ではできない購買体験を提供することが、これからの本屋には必要なんだと。紀伊國屋書店に思いを馳せてみて、再認識することができました。

書店業界ニュース本屋・書店
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ライター
アユム

本のWebマガジン KOTB[コトビー]代表 / 株式会社ミシェルベース代表取締役。
新宿で2年間書店員として勤務したあと、ビジネス書の出版社に転職。2年間、書店営業として関東の本屋さんを担当。独立後は、コトビーで記事を書いています。

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