小学生が投票する異色の賞レース「”こどもの本”総選挙」ポプラ社の狙いとは?

トランプ米大統領の暴露本が話題ですね。

トランプ政権が発足して1年以上経ちましたが、トランプ氏は2期大統領を務められるのでしょうか。

アメリカの選挙は1年ほどかかるイメージがありますので、そろそろ次の選挙に向けた動きも出てくるかもしれませんね。

日本では”選挙”と銘打ったイベントが数多く開催され、AKB総選挙やお菓子総選挙のような、エンタメに関する選挙が増えています。

そして出版業界でも、ポプラ社が”こどもの本”総選挙を実施し、新たな動きとして注目が集まっています。

今回はそんな”こどもの本”総選挙について、くわしくご紹介します。




ポプラ社の気合が感じられる新たな取り組み

「小学生がえらぶ! “こどもの本” 総選挙」は、こどもたちに読書を好きになってほしいという想いからスタートしました。読書が好き、自分から本を読みたいという気持ちは、この本と出会えてよかったという経験から生まれると私たちは考えます。そこで、「小学生がえらぶ! “こどもの本” 総選挙」は、今のこどもたちに1番支持される本を選び、その結果をこどもたちと分かちあうことを目指します。

こどもの本総選挙事務局(ポプラ社)が主催、朝の読書推進協議会が特別協力している”選挙”です。

書店の店頭や全国の小学校、公共図書館などで投票を呼びかけ、投票結果をもとに「こどもたちが選んだ本ベスト10」を決定。

今年開催を予定しているイベントで「こどもたちが選んだ本ベスト10」を発表するというものです。

参加資格は、2017年10月1日時点で小学生であること。

投票締切の2018年2月16日(当日消印有効)までに、投票用紙を郵送またはインターネット上から入力して参加が可能です。

アンバサダーは、芸人・芥川賞作家でもある又吉直樹さん、イラストは大人気絵本作家のヨシタケシンスケさんと、かなりの気合が感じられますね。

そして参加した小学生には、グッズ缶やテーマパークのチケット、または書店員もしくは編集長の体験といったプレゼントが抽選で当たります。

小学生の本当に好きな本がわかる

今回の総選挙が今までの賞と異なるのは、小学生本人が投票するということです。

小学生が本当に好きな本がわかる、この点は非常に大きいと思います。

これまでにはない試みということで、あえて”総選挙”としているのかもしれません。

今まで出版業界の中で優れた作品を選ぶときには、選ばれた審査委員がテーマに沿って大賞を決めるというものが大半でした。

いまや知られる存在となった、本屋大賞は、全国の書店員の投票によって順位が決まるという目線の斬新さで人気になった賞です。

今回の“こどもの本”総選挙もその形式に近く、読者自身の投票で決まるというのは大きな意義があるでしょう。

ポプラ社のブランディングにつながる

今回の総選挙は出版社についてはポプラ社1社のみで行っています。

今後“こどもの本”総選挙の知名度が上がったときに「この総選挙はポプラ社が主催しているんだ」と一目置かれることになり、ブランディングに役立つはずです。

そもそもポプラ社は、「かいけつゾロリシリーズ」や「おしりたんていシリーズ」など児童書や絵本に強みがあります。

この総選挙で自社の書籍がランキングに入ることができれば、それだけでセールスにつながるでしょう。

今後の本づくりのために重要な”情報”が手に入る

万が一ランキングに入らなかったとしても、今後の本づくりにおいてポプラ社は大変貴重な情報を手にすることができます。

今回の投票用紙には、一番好きな本以外に「その本が好きな理由」と「今一番ほしいもの」を答える欄があります。

これは今の小学生たちが何に関心があるのかを知ることができ、これから出す本をどう作っていくかに役立つ情報です。

今回の“こどもの本”総選挙という取り組みは、集計作業を含め大変な作業量になるでしょう。

しかし、こういった情報がたくさん手に入る機会もなかなかないでしょうから、やはりメリットになると思います。

先ほども書きましたが、こういった試み自体が新しく、今後こういった動きが広まれば業界全体を盛り上げることにつながるでしょう。

スケールの限界は否めない。継続できるかがカギ

今までにない新しい動き、この点は本当に素晴らしい取り組みです。

しかし、ポプラ社1社でやることの意義をよく考える必要があるでしょう。

まず、これはうがった見方ではありますが、この総選挙の透明性が疑われてしまう可能性も考えられます。

1社だけで行うと、自社の本が実際に選ばれてランクインしていても「なにか力がはたらいたのでは?」と疑われてしまうかもしれません。

資金面についていえば、又吉さんやヨシタケさんという宣伝力のある人物を今後も起用できるのかといった心配があります。

投票用紙の作成や景品にもお金はかかりますし、資金面を考えると1社でやることには限界があるでしょう。

また拡散力(広告・宣伝力)が小さくなることは、大きな課題ではないでしょうか。

ポプラ社の社員だけでこの選挙について拡散していくのと、数社共催で行ったときの規模の違いは明らかです。

実際にわたしが訪れた小さな書店(小さいとは言っても、駅前にある比較的人は集まる書店)でも、ほとんど目につかない場所にポスターが張ってありました。

数社にしたからといって、書店の状況が大きく改善するかといえば、それは分からないことです。

しかし、数社から同じ話を聞いていれば、”こどもの本”総選挙に対する印象が変わるお店(書店員)もあるかもしれません。

また、人数が増えることでこの”こどもの本”総選挙について、直接会話のできる書店の数が増えるはずです。

せっかくの良いイベントをもっと広め、継続していくためにも数社共催で連携していくという選択肢もあるのではないでしょうか。

認知度が重要。絵本における読者参加型の賞

絵本の”賞”といえば白泉社による「MOE 絵本屋さん大賞」が有名です。

また、全国学校図書館協議会と毎日新聞社による「日本絵本賞」というものもあります。

雑誌があるのが強み「MOE 絵本屋さん大賞」

「MOE 絵本屋さん大賞」は白泉社の発行する絵本雑誌MOEが、その年に最も支持された新刊絵本30冊を決定する賞です。

2017年で第10回目を迎えました。

選考方法は、全国の3000人の絵本専門店・書店の児童書売り場担当者の方にアンケートを実施。わかりやすくいえば、絵本版の本屋大賞と言った感じでしょうか。

そして、”こどもの本”総選挙と同じように読者参加型の「パパママ賞」という部門賞が2016年につくられました。

このパパママ賞は、まずこの1年に刊行された0~6歳向けの絵本の中から全国の書店員さんのご投票によってノミネート作品20作を選びます。

その20冊の作品に投票券を持つ「kodomoe web会員」の方が投票してベスト5を決定するというものです。

MOEは、絵本に強みがあり、雑誌という媒体を通してこの賞の認知度を高めることができます。

また、絵本雑誌と絵本の両方が書店には並びますので、雑誌を実際に見ればその信憑性も増し、認知度が上がっていくことが考えられるでしょう。

認知度が高まった結果として、賞を取った本が書店の店頭に並び、多くの方がランキングに入った絵本を購入するきっかけになります。

そしてランキングをきっかけに絵本を購入した人の中には、白泉社の発行する雑誌MOEに対する評価が高まり、雑誌を購入するきっかけになるという好循環が起こるかもしれません。

歴史は古いが、知名度は低い「日本絵本賞」

「日本絵本賞」は全国学校図書館協議会と毎日新聞社によって、1995年度に創設された賞です。

賞は以下の4つに分かれています。

  • 「日本絵本賞大賞」
  • 「日本絵本賞」
  • 「日本絵本賞翻訳絵本賞」
  • 「日本絵本賞読者賞(山田養蜂場賞)」

このうち、読者参加型の賞は「日本絵本賞読者賞(山田養蜂場賞)」です。

選考方法は、まずその年の対象となる絵本の中から「候補絵本選定委員会」が候補絵本を選びます。

次にその候補作の中から一般の方にWebとハガキで投票をつのり、最も得票数の多かった絵本に「日本絵本賞読者賞(山田養蜂場賞)」が贈られるというものです。

参加資格などはもうけられておらず、一人で何回でも応募が可能になっています。

第23回日本絵本賞読者賞(山田養蜂場賞)も2018年2月28日(当日消印有効)まで応募が行われており、ポプラ社には投票できない小学生以外の方におすすめです。

この賞は絵本の普及や絵本読書の振興、絵本出版の発展を目的に創設されているため、投票に関する制限はハガキ1枚につき1冊ということだけになっています。

主催が全国学校図書館協議会と毎日新聞社で、協賛が図書印刷と旭洋紙パルプ、そして特別協賛が山田養蜂場と出版社は関わっていません。

認知度は低く、影響力はいまひとつという感は否めません。

“こどもの本”総選挙の成否が今後の賞レースを変える可能性も

今回のポプラ社の取り組みは、インターネットが普及したことで可能になったとも言えるでしょう。

出版業界でもネット化を武器にした取り組みを増やしていくためにも、“こどもの本”総選挙の成否は大きな意味を持つでしょう。

そして成功のカギになるのは”認知度”ではないでしょうか。

今回の”こどもの本”総選挙は、認知度を高めるための話題づくりとして、最初から又吉さんやヨシタケさんを起用しているのかもしれません。

しかし、さまざまな面から考えると、1社で長く続けていくというのはハードルが高いと思います。

実際に比較してみた絵本の賞のケースで考えてみても、歴史や目的といったものよりも「いかに多くの人に知ってもらうか」や「拡散する手段を持っているか」が重要になっています。

”こどもの本”総選挙がこれからずっと続くイベントになるように、他社との共催ということを検討してもいいのではないでしょうか。