「大切な人が死ぬこと」そして「残されて生きていく」ということ【『その日のまえに』重松清】

「大切な人が死ぬこと」「残されて生きていくこと」『その日のまえに』重松清 おすすめの和書

僕は「死」がテーマの作品ってけっこう苦手で、自分自身がそれにかなり影響を受けてしまうんで、シンプルに暗い気持ちになってしまうんですよね。

ただ、今回はあえて「死」にまつわる物語を選んでみました。

『その日のまえに』(重松 清)は短編集でして、いずれの作品も死を題材に描かれています。

読んでいる最中は暗い気持ちになるんだけど、著者がこの作品で「どんなメッセージを伝えようとしているのか?」と考えながら読むと、本書は読み手に前進する力を与えてくれます。

どこかに重松清という作家に対する信頼があるのかもしれません。「この人は、絶対に裏切らない」という勝手な信頼感(笑)

死をテーマに扱っているんだけど、どこか前向き。前向きなんだけど、前向きに書きすぎない。

読み手に解釈の自由を与える余白みたいなものが感じられる1冊をくわしくご紹介します。

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短編集なのに時間軸を変えて、伏線を張るすごさ

この短編集では基本的に伏線回収をするスタイルで描かれています。

一体どんな病気になってしまったのか?誰が病気になったのか?それが読者に伏せられたまま、物語の中盤になって初めて「ああ、そういうことなのか」と気付かされる展開です。

この描き方のすごいところって、最初に登場人物に感情移入をさせて、読み手の感情がパンパンに膨れ上がったところで「じつは○○という病気で余命○ヶ月」という宣告がなされるんですよ。

読む方としてはたまったものではありません。登場人物のどちらか(その多くは夫婦のどちらか、親子のどちらか)が「ふむ、どうやら病気なんだな」という”匂わせ”だけが序盤で行われるからです。

だから、誰が、どんな病気なのよ?と好奇心を物語の序盤で否応なく持たされることになるため、読み進めざるを得ません。完全に作者のペースにのせられるかたちになります。

正直、短編集で毎作のように伏線が出てくるので「またこの手法か…」と思わされるところもありますが、読み通したあとはそんなグチはどこへやら。爽快な読後感が待っています。

「死ぬ」を巡るあらゆる立場の感情がこの1冊でわかる

小説は娯楽として読むものという考えを持つ人は多いと思いますし、僕もその意見には賛成です。

ただ、時として娯楽では終わらない、というより終えようがない作品というものもあります。この本がまさにそれです。

ひとこというと「人が死ぬ」という、ある意味で普遍的な事象について、あらゆる立場(人物)の感情や考え方が凝縮されています。

もっとわかりやすくいえば「(自分を含めた)誰かの死に対する、心の持ち方」を学ぶことができる1冊です。

本書は短編集なんですが、最後に収録されている「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」というのが三部作になっています。

若くして余命宣告をされた妻と、それを支える旦那、そして二人の兄弟。死を待つだけの人と、それを受け入れざるを得ない家族のすごくリアルな日々が描かれています。

たとえば、家族を取り巻く不安について書かれている場面が印象的です。

悲しみと不安とでは、不安のほうがずっと重い。病名という形を与えられる前の、輪郭を持たない不安は、どんなにしても封じ込めることができない。どこにいても、なにをしていても、不安は目に見えない霧になって僕にまとわりついていた。

僕もそうなんですが、身体が不調だったりすると「もしかして、なにか大きい病気だったりして…?」となかなか終わらない不安が駆け巡ることってありますよね。

「結局、検査をしてみたらなんてことなかった」というのが1番いい。ただ、なにか病気と診断されたとしても、まだそのほうが「終わらない不安」を抱えながら生き続けるよりずっとマシだと思えるんですよね。

こんな良い小説を読んでこんな教訓しか得られないのもちょっとかっこ悪いんだけど「不安でアレコレ考えるくらいだったら、さっさと病院で検査してもらったほうがいいな」と。

当たり前すぎる話なんだけど、病院に行かずにダラダラと、形のない不安に苦しめられている人って多いはずなんですよ。

30歳を過ぎて、途端に衰えを感じるようになった僕はそれを痛感しています。

すごく内面的なことを書いている作品なのに、意外や意外、健康面にも一役買ってくれるかもしれない1冊なんです。

『その日のまえに』は「死ぬってなんなの?」と思う人におすすめの本

  • ☑ 家族や大切な人の死、あるいは余命宣告に直面している人
  • ☑ いつか来るであろう「大切な人の死」を考え、苦しんでいる人
  • ☑ 漠然と「死ぬ」ことの不可思議さに興味がある人

全体を通していえること。それは「人が死ぬってなんなんだろう?不思議だな」と感じている人におすすめしたい本だということです。

僕はこの本を読んで祖父のことを思い出ました。人が死んだ直後は思い出すのもツライものですが、時間が経つとどうしても存在は薄れていくもの。

でも、それはどうやっても避けようがないし、それで良いと思うんです。なにかの拍子に思い出して、思いを馳せることが祖父のためにもなるし、なにより自分自身のためにもなるから。

この本は、ガツンと、わかりやすい読みごたえ(面白さ)がある本ではありません。でも、だからこそ、自分の頭の中にストーリーをよく馴染ませることができるし、深く考えることができるんだと思います。

この先の長い人生にわたって意味を持つ「死生観」を吸収できる、そんな1冊です。

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アユム

1988年、千葉県生まれ。書店と出版社を経て、ライターとして活動中。2017年より株式会社ミシェルベース代表取締役。

【読みたい本が見つかる】をコンセプトに、洋書・和書のおすすめ本をご紹介。「読書が大好きで、洋書も気になるし、英語も身につけたい」。そんな欲張りな人(自分含め)に向けて記事を書いています。

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