雑誌の売上額が書籍を下回ったことが話題になりました。
紙の雑誌というのは、もしかしたら時代遅れのコンテンツになってしまったのかもしれません。
でも、もしそれが本当であるならば素直に受け止める必要があります。
その上で、もう一度みんなが雑誌に振り向いてくれるような施策を考えればいいのですから。
紙の雑誌の売り上げをアップさせる1つの施策が、いま注目を集めています。
それは小学館が仕掛ける「雑誌の時限再販(値引き販売)」です。
時限再販によって、どのように雑誌の売り上げが伸びているのでしょうか。
そもそもの時限再販とは何かをおさらいして、雑誌の売り上げを伸ばす新しい取り組みについて見ていきましょう。
そもそも雑誌の時限再販ってなに?
出版業界の人には必要ないでしょうが、業界外の人にとって「時限再販」という言葉は未知かもしれません。
時限再販とは、簡単に言えば「一定日数が経過したら、雑誌を値引きして販売する」という方法です。
書籍や雑誌は再販売価格維持制度という決まりごとがあるので、値引きが認められていません。
しかし、この時限再販という仕組みは書店が値引きをして販売することが許されているのです。
雑誌が値引き販売できれば、ムダな在庫を一掃できるので返品を抑制できます。
値引きによって売上高は下がりますが、売れ残りを減らせるメリットがあります。
時限再販は現場で働く書店員にとって大きな負担になる
出版物の時限再販はたびたび業界でも注目される話題です。
なぜなら「本も値引きできればもっと売れるんじゃない?」という声が多いからです。
しかし、それがなかなか広がらない。その理由は色々ありますが、特に問題視されているのが”現場の混乱”です。
つまり、値引きする本と値引きしない本を区別するのがむずかしく、それを管理するのが大変なので書店員の負担になります。
ですから、値引きによって得られるメリットと、現場の混乱というデメリットが相半ばする状態なので時限再販はなかなか広がっていないのです。
小学館の時限再販はとってもシンプルでわかりやすい
そんななか、今回成果を挙げている小学館の時限再販の方法はとてもシンプルです。
その方法とはズバリ、「値引きする雑誌をビニールに入れて店頭に並べるだけ」というもの。
小学館が一部銘柄を対象に昨年10月から行なっている雑誌の時限再販(値引き販売)で、着実に実売率アップを達成している。値引き後の価格を印刷したバーコードと値引き告知シールを添付した透明のOPP袋に、当該誌を入れるだけという作業は、書店に大きな負担をかけることもない(「新文化」6/9号)
この方法は小学館の主導で行われています。
あらかじめ値引きシールが付いたビニール袋を準備して、発売から一定日数が経過した雑誌をビニール袋に入れるという簡単な方法です。
さて、この時限再販によって小学館の雑誌はどれくらい売り上げを伸ばしているのでしょうか?
販売伸び率が20%前後と好調に推移
新文化6/9号【値引き後の実売、2〜4倍アップ】という見出しの特集記事によれば、この時限再販は「サライ」「BE-PAL」の10月号を対象に有隣堂など4法人101店舗で実施されました。
発売から20日間は価格を拘束して、その後31日間は100円引きで販売するという条件です。
この2誌の時限再販に取り組んだ店は、おおむね20%程度の販売伸び率を達成したとのこと。実売が2〜4倍になるなど大きな効果を見せています。
この結果を受け、現在のところ小学館はくまざわ書店や三洋堂書店など1000店規模に取り組みを拡大しています。
雑誌の値引き販売における課題は2つある
雑誌を値引き販売すれば実倍率がアップするのは、考えるまでもなく当然の話です。
普段は定価でしか買えない新品雑誌が安く買えるとなれば、普段は手に取らない雑誌を買ってみようと考える読者が増えます。
売れ残りとなって返品するよりは利益率を削ってでも売るべきなのは明白です。
とはいえ今後もこの時限再販を長く上手に活用するためには、以下の2つの点に注意しなければなりません。
- ・値引きが有効な雑誌を見極めること
- ・毎号値引きするのではなく、間隔を空けること
値引きしても読者が食いつかない雑誌は存在する
値引きによって安く買える雑誌になっても、その値引き効果が現れにくい場合があります。
つまり、値引き販売したところで売上につながらないケースがあるということです。
固定ファンがついていて、読者層も50〜60代と高めの「サライ」は効果が表れにくいという。これは、購入意欲が金額の多寡であまり左右されないためだ(同上)
こういった雑誌があるので、
「本当にこの雑誌は値引き販売する必要があるのか?」
という銘柄選びを慎重に行わなければいけません。
毎号値引きされるのがわかれば、読者は定価で買わなくなる
時限再販が当たり前になって、値引きされるタイミングが読者にもわかるようになるのは問題です。
なぜなら、最新号が発売されても「◯◯日後には安くなるんだから、まだ買わなくていいよね」という行動に出るからです。
これも言われてみれば当然の話で、安くなるのがわかっていれば、誰も雑誌を定価で買わなくなります。
この対策として、小学館は同一雑誌については最低でも2ヶ月は間を空けて値引き販売をしているようです。
雑誌の値引き販売は”劇薬”である
一見すると、雑誌の値引き販売によって実売が伸びるのであれば、歓迎すべき施策かもしれません。
しかし、雑誌の値引きという”劇薬”は慎重に扱う必要があります。
なぜなら、値引きによって安くなった雑誌が当然の世界になると、読者は安い価格に慣れてしまう可能性があるからです。
さきほど述べたように、小学館は値引き期間を最低でも2ヶ月空けています。
もちろん最初はこれでも通用するかもしれません。
しかし、この間隔を読者が把握できるようになると、購入をためらう人も出てくるでしょう。
値引きされた雑誌を買う客ばかりになり、やがては値引き後の価格が当たり前になる可能性もあるからです。
雑誌の売上を伸ばす施策は絶対に必要で、これに先んじて取り組んでいる小学館には敬意を示すべきです。
しかし、値引きだけに頼っていては抜本的な解決策にはならないことを肝に銘じておく必要があります。