一昔前、ベストセラーを賑わせていたのは新書でした。
バカの壁、国家の品格、頭がいい人、悪い人の話し方など、飛ぶように売れた新書がたくさんありました。
しかし、そもそも本が売れない現在においてどんなにキャッチーなタイトルを付けても大きな売れ行きにはつながりません。
そんな苦しい時代が続くなか、新書に新たな風を吹き込むかもしれない1冊の本が登場しました。
それが『読まずに死ねない哲学名著50冊』(フォレスト出版)です。
新書はタイトル勝負から装丁勝負へ?
冒頭で挙げた、年間ベストセラーを新書が賑わせていた時代はタイトルが非常に重要でした。
装丁が統一されているので、いかに短くインパクトがあるタイトルを付けるか。ここに新書に売れ行きがかかっていたと言ってもいいでしょう。
しかし、そういった戦略を多くの新書(出版社)が取るようになった結果、タイトルありきの新書は読者に見向きもされなくなってしまいました。
そんな新書が見出した新たな活路が”全オビ”です。
全オビとは、新書カバーの上からデザインを重視したカバーを掛けてしまうことをいいます。
つまり、統一された新書の装丁が、さまざまなデザインを持った新書へと変貌を遂げるのです。
年間ベストセラーランキングに食い込むほどの作品は出ていていませんが、以前に比べて書店において新書の存在感が増しているのは事実です。
新書は装丁を統一することで経費を抑えられるというメリットがあるので、全オビはコスト高につながります。
しかし、それでも十分な売り上げ効果を生み出しているわけですから、何とも意外です。
アニメイラストを新書カバーに打ち出すことの是非
標題にもしたとおり、フォレスト出版の『読まずに死ねない哲学名著50冊』はまさに装丁勝ちです。
もちろん、新書ならではのインパクトのあるタイトルは効果を発揮しているでしょうが、この本は完全に装丁が売り上げに貢献しています。
新書売り場で異彩を放つ配色。平積みしている書店は非常に多く、いかに効果的な装丁であるかが窺い知れます。
実際に目にした方も多いと思いますが、ぜひ新書売り場での強いキャッチ感を体感して欲しいところです。
ちなみにこの装丁は書いたのは漫画家の横槍メンゴ氏。
新文化の記事によれば、丸善ジュンク堂書店梅田店ではSNSで紹介したところ大きく拡散され、新書の週間ランキング1位を獲得。
購買客層は10代後半〜20代半ばくらいの女性。多くは横槍氏のファンとのことですが、週間ランキング1位は侮れません。
いわゆるアニメ系のイラストを装丁に使うことは良し悪しあります。好き嫌いが分かれますし、万人受けはまず狙えないからです。
しかし、もはやマス・マーケティングが通用しない消費者に対しては、とことんターゲットを絞った本を作らないと売れない時代に突入しているとも言えるでしょう。
さらに言えば、【”新書”×”哲学書”×”アニメ装丁”】という、今まで出会わなかった組み合わせも非常に大きな意味を持っています。
ターゲットを絞りながら、新しい組み合わせを仕掛けていく。今後の新書づくりにおいて、同書は1つのマイルストーンになるかもしれません。
3月6日発売の同書は4月12日に7刷目が出来。累計発行部数は3万2000部まで伸びています。
書店に行った際は新書コーナーでの異彩の放ち方をご自身で体感してみてください。